「終わった……!」
提出期限の迫ったレポートがなんとか片付き、大きな溜息を吐いた。これで多分……大丈夫。分からないところは成瀬さんに聞いたし、書き方のアドバイスも貰った。反省すべきは、もっと余裕を持って始めれば良かったところ。
――まだ平気なんて根拠のない自信に満ちていた自分を叱りたい。
「陽菜さん、いま大丈夫?」
机に山積みしていた教科書や参考書、資料に使った本を棚に戻していると、ノック音と共に成瀬さんの声が聞こえた。
「はいっ! 大丈夫です!」
飛びつくようにドアを開ける。
「わ、驚いた」
成瀬さんは全然そんな感じには思えない口調とトーンで言い、腕時計に視線を落とした。
「良かったら、お茶でもどうかと思って。でも、時間が時間だから……断ってくれて構わないよ」
――午後十時。確かに、一緒にお茶を飲もうというには少し時間が遅いかもしれない。だけどレポートから開放された今、お断りする理由は無くて。むしろ嬉しいくらいだった。
「私もお茶飲もうと思ってたところだったから、ナイスタイミングです」
「そう……。自分で言っておいてなんだけど、陽菜さんに断られたら落ち込んで明日に響いていたかもしれないから、ホッとした」
「はは……」
どこからどこまで本気なのかが分からないんだよな……成瀬さんは。長い前髪に隠れた瞳はいま、どんな色と温度でいるんだろう。