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 もう梅雨になったのか? と思うくらい、最近は雨が多い。今日も雨。午前中からポツポツ降り出して、お昼は土砂降り、午後になると少し雨脚が弱まった。
 もうじき止むかな……と窓の外を気にしていると、バイクのエンジン音が聞こえてくる。マサシさんだ。私はタオルを持って玄関へ走った。
「おかえりなさい!」
「お、おう……」
 フルフェイスのヘルメットを貸出カウンターに置いたマサシさんがビックリした顔で私を見た。数秒の沈黙。その後に、はにかんだ笑顔。
「た、ただいま戻りましたです」
「なぜ不自然な丁寧語」
 いやぁ、と背負っていた荷物を下ろしながらマサシさんは頬をかいて笑う。
「なんとなく? 館長じゃん?」
 そうじゃないだろう。なんか誤魔化されたような……。
「ご苦労様」
 事務室から成瀬さんが出てくると、笑っていたマサシさんの顔が真顔になる。その顔をよくよく見て気が付いた。あ、そうだ。フルフェイスじゃ濡れないよね。タオル必要なかったかな?
「運も勘も無いとか言うな」
「まだ何も言ってないけど」
「目が! 言ってんだよ!」
 私からタオルを取り、マサシさんは顔を拭う。
 いや、濡れてないですよね……動揺してるのバレバレですよ。言うことも笑うことも出来ないので、震えそうになる頬を必死に抑えた。
「最後の店に無かったらどうしようかと少し焦った。時間は……間に合ったみたいだな」
「結局全部まわったのか。一軒目でヒットしてたら、雨にも降られなかったよね」
「お前がリストの一番上に書いてくれてたら濡れてなかったよなぁ」
「あはは」
「目が笑ってねぇぞ」
 マサシさんはジト目で成瀬さんを見やりながら、撥水加工されてる大きなリュックからビニールに包まれたヴァイオリンケースを取り出した。想像していたより古いもので、何箇所か小さなキズがある。成瀬さんはそれを指でなぞった。
「新しいキズは無いみたいだ。良かった」
「良かった! 中も確認するんですか?」
「いや。やめておこう。僕らが見て分かるものじゃないし」
「人の秘密をこっそり覗くみたいだしな」
 そう言うマサシさんに、成瀬さんが目を細め小さく頷く。同感。私も頷いた。