「事故の件も、怪現象の話と一緒に聞いた。だから、彼女の姿を見てすぐに分かったんだよ」
「そうだったんですか」
――遠き山に日は落ちて。
 日本では《家路》や《遠き山に日は落ちて》の歌詞で有名な第二楽章は、ドヴォルザークの弟子も《Goin’Home》と作詞している。成瀬さんが教えてくれた。
 聞いていると、とても懐かしい気分になる曲。夕方のチャイムは帰宅の合図、みんなと競争しながら帰った日を思い出すからだろう。オーケストラだと、より壮大な望郷の曲に聞こえた。
「豊香さん、ヴァイオリンを見つけて一緒に家に帰りたいんでしょうね……」
 雨の音が聞こえ、誰かが庭を歩いている――それは豊香さんなのでは?
「そうだね。神宮氏もハッキリ言わなかったけど、そう思っているみたいだった」
「庭を歩いているだけで家に入らないのはどうしてだろう……。濡れてるから、なんて理由じゃないですよね。やっぱり、ヴァイオリンが見つからないからなのかな?」
「……」
 成瀬さんは席を立つとレコードを止める。部屋が一気に静かになった。
「彼女の納骨式、明後日だそうだ」
「えっ?」
 私に背を向けたまま。成瀬さんが言った。
「納骨は遺族にとって大きな区切りだから……。神宮氏も彼女のヴァイオリンが見つかっていないことを、とても気に病んでいた。必ず見つけて、二人に返さないと……」
 低い声が沈んでいく。
「マ、マサシさんが絶対見つけてきてくれるから、大丈夫ですよ! ほら……カレーもアップルパイも完璧に作れる人だから!」
 どういう理屈だよ、とマサシさんからツッコミが入りそうなことを言ってしまった私。
 振り返った成瀬さんはクスっと笑う。
「やっぱり陽菜さんは可愛いね」
「どういう理屈でそうなるんですか」
 考える間もなく自分がツッコミを入れていた。