「あの……マサシさんは何を頼まれて?」
「あ? あぁ……リサイクルショップ回り。さっきの女のヴァイオリンを見つけてくる!」
マサシさんが笑う。まるで宝探しに行く子供みたいに笑うので、意外な表情に驚いた。
「豊香さんの探し物はヴァイオリンなの? でも、なんでリサイクルショップを……」
「曲名と同時に、中古品の楽器と一緒に並ぶヴァイオリンが見えた。多分、現場から持ち去った誰かが売りに出したんだと思う」
現場。持ち去った。
どちらも嫌な響き。事件の匂いがそこはかとなく漂う。まさか殺人とか言い始めないよね?
私の顔に気付いた成瀬さんは「そうか」とパソコンを操作しクルッと机上で回した。
「陽菜さんが来る前にね、こんな事があったんだ」
「ここに来る途中の道だよ。急カーブあんだろ」
「すぐそこじゃないですか!」
成瀬さんが指差す地方新聞のすみっこに載っていた記事を読んだ。
雑木林の中で遺体で発見された女子大生。歩道脇は崖状なのにガードレールが無く、当日は雨も振っていた為、誤って転落した可能性が高いと思われる。帰宅時間が遅い娘を心配した父親から捜索願が出ていた――。
小さな記事で詳細な情報は載っていない。もちろん豊香さんの名前も出ていない。地方新聞でこの扱いなのだ。この市に住んでいても話を知らない人は多いだろう。
「これ、本当に事故なんですか? 持ち物消えるって変ですよね」
「第一発見者とか怪しいよな! そもそも、ここまで来る奴なんて滅多にいないのによ」
「事件か事故か決めるのは警察の仕事だ。僕らには関係ない」
早口になったマサシさんを制止する成瀬さんの声は、極めてドライだった。
「これは捜査じゃなく、ただの探し物だ。僕らは神宮豊香さんのヴァイオリンを見つけて彼女に返す。……それだけだよ。彼女が知りたいのは自分の死に際に何があったかじゃないんだ。仮に犯人がいる事件だとしても、彼女が求めない限り僕はそれを見ることが出来ない」
「……そうだったな」
溜息をつき、マサシさんはバツの悪そうな顔になる。……私も一緒に反省した。
「あ? あぁ……リサイクルショップ回り。さっきの女のヴァイオリンを見つけてくる!」
マサシさんが笑う。まるで宝探しに行く子供みたいに笑うので、意外な表情に驚いた。
「豊香さんの探し物はヴァイオリンなの? でも、なんでリサイクルショップを……」
「曲名と同時に、中古品の楽器と一緒に並ぶヴァイオリンが見えた。多分、現場から持ち去った誰かが売りに出したんだと思う」
現場。持ち去った。
どちらも嫌な響き。事件の匂いがそこはかとなく漂う。まさか殺人とか言い始めないよね?
私の顔に気付いた成瀬さんは「そうか」とパソコンを操作しクルッと机上で回した。
「陽菜さんが来る前にね、こんな事があったんだ」
「ここに来る途中の道だよ。急カーブあんだろ」
「すぐそこじゃないですか!」
成瀬さんが指差す地方新聞のすみっこに載っていた記事を読んだ。
雑木林の中で遺体で発見された女子大生。歩道脇は崖状なのにガードレールが無く、当日は雨も振っていた為、誤って転落した可能性が高いと思われる。帰宅時間が遅い娘を心配した父親から捜索願が出ていた――。
小さな記事で詳細な情報は載っていない。もちろん豊香さんの名前も出ていない。地方新聞でこの扱いなのだ。この市に住んでいても話を知らない人は多いだろう。
「これ、本当に事故なんですか? 持ち物消えるって変ですよね」
「第一発見者とか怪しいよな! そもそも、ここまで来る奴なんて滅多にいないのによ」
「事件か事故か決めるのは警察の仕事だ。僕らには関係ない」
早口になったマサシさんを制止する成瀬さんの声は、極めてドライだった。
「これは捜査じゃなく、ただの探し物だ。僕らは神宮豊香さんのヴァイオリンを見つけて彼女に返す。……それだけだよ。彼女が知りたいのは自分の死に際に何があったかじゃないんだ。仮に犯人がいる事件だとしても、彼女が求めない限り僕はそれを見ることが出来ない」
「……そうだったな」
溜息をつき、マサシさんはバツの悪そうな顔になる。……私も一緒に反省した。