振り向くと、すぐそこに男子生徒の顔があった。慌てて後ろに下がると、その人は「ごめんごめん」とへらっと笑った。

 上級生だろうか、着崩した制服に三年生の学年カラーである紺色の上履き。やけに色白で、屈託のない笑顔が印象的だった。

「驚かせて悪かった。俺、三年一組の高嶺(たかみね)千暁(ちあき)。怪しいモンじゃないよ。一年生だよね?」
「は、はい……」
「さっきの職員室で美術部の話していただろ? ちょっと気になって声かけちゃった」
「はぁ……でも先生に美術部は存在しないって言われて」
「うーん……ウチの学校、芸術コースがあるからね。毎度コンクールで入賞しているから、先生たちもそっちにつきっきりなんだ」
「そうですよね……教えてくださってありがとうございます」

 やっぱりそうだったんだ。やはり芸術コースがあるから、似た部活はいらないという先生の考えで睨まれたのだ。

 もしかしたら、私が去年見たカンバスの絵の作者はもう卒業してしまったのかもしれない。あれが最後だったから展示してもらえた可能性だってある。受付で資料を受け取ったとき、作者についてもっと詳しく聞いておくべきだった。
 私が大きく肩を落としたからか、高嶺先輩は更に尋ねてきた。

「どこで美術部があるって知ったの? 学校案内のパンフレットにも、ホームページにも載ってないはずだけど」
「……そうなんですか?」

 受験を決めたくらいのタイミングでパンフレットは見たけど、カリキュラムについての記載が全体の三分の二を占めていたし、部活紹介の欄にも目を通したものの、文化部の代表的な部活が三つほど並べられ、最後に「…他」と締めくくられていた。すべての部活動を把握したのは、入学して直後のオリエンテーションの時だ。

 高嶺先輩は苦笑いをしながら、不思議そうに重ねて聞いてきた。

「そうなんだけど……本当にどうやって知ったの?」
「文化祭で、作品展示を見てまわってたときに……」
「待って。……詳しく聞きたいんだけど、場所移していい?」

 周囲を気にしながら高嶺先輩は小声で言った。先輩越しに見れば、さっき職員室で睨んでいた先生がすぐそこまで迫ってきていた。

「高嶺、一年生にちょっかい出すなよ」
「なんにもしてないですよ。それより先生、俺に話しかけてくれるなんて久々ですね」
「っ……お、お前らが他の生徒に迷惑をかけていたら注意するに決まって――」
「あ、先生! 今廊下の手すりに乗って滑って降りてく奴らがいましたよ。三年の川島と野村です!」
「はぁ!? ったく、アイツらは……!」

 今度は少し離れた階段で遊ぶ生徒に、先生が鬼の形相で向かっていく。あっちこっちで怒ってばかりで先生は大変だ。そう仕向けた張本人は、私の隣でしめしめと笑っている。

「あの二人、三年になってもああいうことするんだよなー。俺には好都合だけど。それじゃあ行こっか。時間は何時くらいまで大丈夫?」
「特には……あ、でも終電は逃したくないです」
「そこまで引っ張らないから大丈夫!」