抱える花束のレースのシワとか、スズラン以外に挿しこまれた植物を、高嶺先輩と相談しながら描くことにした。私がこう描きたい、と伝えれば、それに沿って助言してくれる。細かい部分も丁寧に教えてくれた。

 描き終えた時には、圧倒的な達成感でその場に座り込んでしまった。集中しすぎて酸欠になったのかもしれない。なんとか立たせてもらって、後ろの椅子に移動される。
 私が描いた下書きを見て、香椎先輩はしばらく黙っていたけど、いつになく優しい笑みを浮かべていた。

「やるじゃん」

 香椎先輩は用意していた、ベンチの灰を混ぜた緑、茶、焦げ茶、黄色、灰色の絵の具を揃えたパレットを片手に、筆を取った。

 沈黙が流れ、緊張感が走る中、迷う暇なくずっと前から決めていたように色を取り、下書きに沿って塗っていく。丁寧に、かつ慎重に。
 同時に筆を置く度に絵の具に含まれているベンチの灰が、カンバスに馴染んで溶けていく。それはまるで粉末状に砕いた遺骨を海に撒く――散骨そのものだ。

 私には、香椎先輩は絵に命を吹き込む画家ではなく、絵に描かれたモノへの想いを込めて灰を撒く納棺師に見えた。