私が志望校を変えてまでこの高校に進学したのは、早紀が文化祭に誘ったのがきっかけだ。

 当時の私はすでに志望校は決めていて、受験勉強に励んでいた。息抜きにと言われて渋々ついていったが、早紀の目当ては校風やカリキュラムでもなく、入学したら先輩になる生徒との交流だった。

 確かにコミュニケーションは大切だとは思うが、何も忙しい文化祭じゃなくてもいいと思った。体験入学なら交流する時間なんていくらでも取れる。在校生だって思い出作りに楽しんでいるのに。

 しかし、実際に行ってみれば、来場者との関わりも大切であることもわかるような気がした。早紀は顔ばかりに目がいっていたけど、在校生は皆親切に校内を教えてくれて、屋台のクレープではホイップを多めにしてくれることもあった。気さくな人が多い、居心地の良い学校かもしれないと思った。

 この学校は普通科の中にコースが複数あって、進学を目指すコースの他に、芸術コースが設けられていた。すでに在籍中にコンクールで最優秀賞をいくつも取る生徒が出てくるほど、毎年応募が絶えないという。

 そんな芸術コースの生徒が有終の美を飾る作品展示が文化祭だ。
 展示ホールに行くと、いくつもの作品が壁やパーテーションに飾られ、中央の台には彫刻や陶芸が並べられている。すでにホールには多くの来場者が集まっており、中には吟味しながら見ている人がいた。かっちりとしたスーツを着ていたから、採点でもしているのかもしれない。

 さらっと流して見ていく早紀を放って、一つずつの作品に目を向けていく。

 特別絵が好きなわけではない。ただたまに見てぼーっとするのが楽しい。絵に込められた意味を汲み取ることはできないし、そこまで深く考えるのは向いていない。