「葵、聴いてよ! お父さんったらひどいのよ」

 お母さんが勢いよくわたしに言う。
 また、喧嘩してるのか。

 今度はなんで喧嘩したのか、とお母さんの言葉を待つ。

「お母さんに内緒でこんな高い素敵なネックレス買ったのよ!」

「はい?」

 思ってた喧嘩の内容とは違いすぎて、戸惑う。

「つまり?」

「お母さんへのプレゼントだって! 
 うれしいわ。お父さん、ありがとね」

「まぁ……うん」

 照れくさいのか新聞に顔を隠したままお父さんは頷く。

 お母さんがまるで喧嘩した後みたいに言ってくるから、また喧嘩したのかと勝手に思っちゃったじゃん。

「あははっ!」

 思わず声が出るほど笑ってしまった。
 お母さんとお父さんは同時にこっちを向く。

「お母さんとお父さん、ほんとに仲良しよね! 
 喧嘩してないみたいでよかった」

「あたりまえじゃない。もうやめたのよ」

 説得力のないお母さんの言葉に苦笑する。

 わたしにとって喧嘩してほしくないのは家の空気が冷たくなって居づらくなるから。
 家の空気は暖かいままでいてほしい。

 家族みんなの笑い声が家中に響いた。