「お母さん。お父さん。
 わたし、この神社を継ぎたくないってわけじゃないけど、学校の先生になりたいんだ。
 だから、大学に行こうと思う。お金かかるし、迷惑もかけると思う。だけど、これから嫌いな勉強だって頑張る。お手伝いだってちゃんとする。
 そうしてもいいかな?」

 恐る恐る目を開く。
 お母さんとお父さんはしばらくぼーっとしていて、いきなりふたりで目を合わせて笑う。


「あたりまえじゃない! 葵が自分のこと言ってくれるなんてお母さんうれしいわ」

「お父さんも反対はしないからがんばりなさい」

「はいっ!」

 反対しないんだ。
 こんなことなら、もっとはやく言えばよかったな。

 いまではもう親との見えない壁は感じない。


「でも、お父さんは残念なんじゃない? 
 葵と一緒に働きたがってたから」

 お母さんが思い出したように言う。
 お父さんなんて言うんだろう。
 少し緊張して背筋が伸びる。

「いや、たしかにそうできたらうれしいけど。葵がやりたいことをしてくれた方がもっとうれしいから」

「お父さん……。ありがとう!」

 わたしのことをこんなに想ってくれるのは伊織だけじゃなかったんだ。大きな愛はたしかにここにもあった。
 そう思ったら、胸の奥が暖かくなった。


「それと前も言ったけど、ふたりとも喧嘩はなるべくやめてね? 
 わたし、喧嘩ばっかするふたりのことは嫌いだから」

「……葵にこんなにはっきりと言われたらやめないわけにもいかないわね、お父さん」

「……あぁ」

 ふたりはちょっと苦笑する。

「葵、これからも思ったことは言っていいからね。 
 葵が正直に言って、それを否定はしないから」

「うん!」

 ちゃんと伝えられた。
 思ったこと、言いたいことを。自分の声で。



 伊織のおかげであんなに嫌いだった自分のことを少しだけ好きになれた。

 あなたがそばにいてくれたから、わたしはちょっとでも変わることができた。