「じゃあこれ、高野くんと由乃の分」
どのくらい渡せばいいかなんてわからないから少なめ調べ学習のプリントを渡した。
由乃は文句とか言うわけないけど、高野くんはなんて言うかわからない。
それに、自分が多いほうが楽だから。
自分が無理する分には慣れている。
「あおちゃん、そんなにやれる? 大丈夫?」
由乃がわたしの手に残ってるメモの枚数を見て、心配そうに訊く。
「全然大丈夫」
これは嘘じゃない。ほんとに平気。
このくらいちょっと徹夜すればどうってことない。
ふと視線を感じて高野くんのほうへ向く。
「なに?」
「いや、変わんないなと思って」
頭の中にハテナが浮かぶ。
まるでだれかと重ねてみているような。
「まぁ、もし大変だったら俺に言ってよ。
手伝うからさ」
「……うん」
優しいな、高野くんは。
わたしのこといつも心配してくれている。
隣の空き教室に資料の本を返しに来た。
ドアが開いていたから、すぐ中にひとがいることに気づく。
また後で、と戻ろうとしたらわたしの名前が聞こえてくる。
「芽依、もしかしてそれが目的で水原さんとこと一緒に組んだの?」
芽依。それは西森さんの名前だ。
西森さんたちこんなとこでなに話してるんだろ?
普段は陰口とか気にならないけど自分の名前が出てると話は違う。耳を澄ましてみると、西森さんたちの声はよく聴こえた。
「当たり前でしょ。あの子なにか頼まれたら絶対断らなさそうじゃん?」
わたしがドアのところにいるなんて思わないから、西森さんの口は止まらない。
「自分の意見とかなにも言わなくて頷いてくれるだけだからほんと助かる。メモたくさん渡しても全然文句も言わないし!」
「うわー、それは楽だわ」
「でしょ!」
あはは、と笑い声が聞こえてくる。
こんなこと思われていたなんてショックだった。
「リーダーは押し付けられなかったけどね」
「押し付けようとしたの?」
「だって、絶対わたしになると思ったからさ!
まあ、じゃんけんで負けて結局そうなっちゃったんだけど」
そっか。
そういうことだったんだ。
でも、おかしいとは思ったんだ。
クラスのリーダーである西森さんがわたしたちのグループに来るなんて。
わたしとはなにもかも違う。住む世界が違うんだよ。
やっぱり西森さんのことは苦手だ。