きみがくれた日常を





「葵、今日はどこか行くの?」

 おしゃれして、伊織のところに行く準備をしているとお母さんの声が上から降ってくる。

「うん。伊織のとこ」

「デートのお誘いかしら?」

「そ、そんなんじゃないから!」

 いきなり変なこと言うから思わず動揺してしまった。
 そんなわたしにお母さんはうれしそうに笑っていた。


「夜、みんなで誕生日パーティーしましょうね。
 ケーキと葵の好きな物たくさん作ってまってるわ」

「わあ、たのしみにしてる!」

 たのしみだな。
 自分の誕生日がこんなにきらきらしてるなんてはじめてだ。

 家を出て歩き出そうとすると、携帯が振動する。
 見てみると、伊織からメッセージが来ていた。

『できたら由乃ちゃんの家に寄ってから来てほしい』

 なんで由乃の家?
 よくわからないけど、由乃の家のほうに向かって歩く。



 由乃の家に着いて、チャイムを鳴らす。

「由乃!」

「あれ、あおちゃん。どうしたの?」

 由乃が驚いたような表情でこっちを向く。

「え、由乃。わたしに用事あるんじゃないの?」

「たぶん、なかったと思うけど……」

 由乃はわたしに用事があるわけじゃないみたいだ。
 じゃあここにいる理由ももうない。

「そっか。わかった! 勘違いだったかもしれない。
 わたしこれから伊織のところに行くの」

「ええついに付き合うの!?」

 由乃がいきなり声を大きくして、目を輝かせる。

「そ、それはわかんないけど、たのしみだな」

「夜、電話でどうだったか聴かせてね」

「……うん」

 じゃあまた! と手を振って、わたしが歩き出そうとすると、由乃がわたしの名前を呼んだ。
 慌てて振り向くと、

「お誕生日おめでとう!」

 大きな声ではっきりと聴こえた。

「ありがとう!」

 うれしてわたしも負けないくらいな大きな声で返事をした。


 それから由乃と別れて、星空公園へと向かう。
 由乃、用事なんてなかったよって伊織に会ったら言わないと。

 今日は伊織となにができるのかな。
 どこか連れてってくれたりして、それで由乃が言ってたみたいに付き合えたりできるかな。
 そう思ったら自然と笑顔になってきた。

 うきうきしながら歩いているといきなり耳を引き裂くようなブレーキ音と車同士がぶつかったような鈍い音が聞こえる。

「え……」

 そして、目の前に大きなトラックがこっちにぶつかろうとしていた。
 逃げてももう間に合いそうになく咄嗟に目を瞑る。

 すると、だれかに名前を呼ばれて、ドンと強く背中を押された気がした。