きみがくれた日常を





 伊織がもう暗いからって家まで送ってくれることになった。
 家の前で、わたしは改めて伊織のほうを向いてお礼を言う。

「たのしかった。送ってくれてありがとね」

「全然だよ」

 そう返しても伊織は立ち去ろうとしないでいた。
 どうしたのかな、と思っていると「手出して?」と言われる。

「これ、葵に似合うと思って」

 わたしの手のひらの中には綺麗なお花のかんざしが優しく置かれた。

「これ、桜?」

 よく見てみると、桜の花びらが何枚も重なっているものだ。

「うん。葵がいちばん好きな花って言ってたから」

 たしか海行ったとき教えたことだ。
 そんな些細なことでも憶えててくれたことがすごくうれしい。

「もらっちゃっていいの?」

「うん」

 嬉しくてさっそく髪に付けてみる。
 お母さんから借りたかんざしを取ってつける。

「どうかな?」

「……めちゃくちゃ似合ってる」

「ふふ、今日はなんか素直だね」

「俺はいつでも素直ですー」

「はいはい」

 しばらく名残惜しそうに見つめあった。
 その後は伊織が沈黙を破る。

「じゃあ、またな。 おやすみ」

 わたしも、おやすみと返そうとすると向こうから声が聞こえた。


「あら、いま帰ったの?」

「お母さんとお父さん!? なんで?」

 そこには腕を組んでたのしそうに歩くお父さんとお母さんの姿があった。
 お母さんの手にはヨーヨーを持っている。

「わたしたちも花火大会行ったのよ」

 仲直りしたんだ。
 よかった。ふたりの笑顔を見てホッとする。

 すると、お母さんの目が伊織にいく。

「こちらの方は?」

「は、はじめまして、高野伊織です。こんばんは」

 行儀よく伊織が頭を下げる。
 少しぎこちない顔をしていて、緊張しているみたいだ。


「こんばんは。
 葵のこと送ってくれたのね、ありがとう」

「いえ! ではこれで失礼します」

 お母さんとお父さんにペコッとお辞儀をする。
 今度はわたしのほうを見る。

「葵、またな!」

「うん」

 伊織に手を振って、玄関を開ける。



「いい人そうで安心したわ。あの子になら葵を任せれる、ね、お父さん」

「え、あぁ……」

「葵が巫女さんで、伊織くんが神主。
 うん。とっても似合うんじゃない? ね?」

 なんか、勝手に話を広げられてる。
 伊織がこの神社継ぐわけないし、それに。

「ねぇ、まだ付き合ってもないからね!」

 少し声を上げて言う。

「ふーん。"まだ"ね」

 お母さんのからかうような表情にかぁっと顔が赤くなるのを感じた。




「お母さんたち、仲直りしたみたいで良かった」

 ぽつりと零す。

 いつかは仲直りするってわかってても、やっぱりはやめにしてくれるのがうれしい。

「うん。これからは葵の気持ち考えてから喧嘩しないとねっ」

「もー! なにそれ!」

 お母さんの言葉がおかしくて笑う。
 ただそれだけなのに、お母さんの顔はすごく嬉しそうな顔をしていた。

「……変わったね、葵は」

「え? なんて?」

「なんでもない。伊織くんとの花火大会楽しかった?」

「もちろん!」

 親子でココアを飲みながら想い出話をした。
 伊織との出来事を話すのは少しはずかしかったけど、同じくらい幸せな気持ちにもなった。
 お母さんとこんな風に自然と話せるなんて、あの頃のわたしは思ったことなかったな。