きみがくれた日常を




「伊織。そろそろ花火始まっちゃうよ」

 たくさんの人が一斉に移動している。
 みんな、場所取りに行くのだろう。
 わたしたちもそろそろ行かないと。

「あ、そっか。これどうしよ」

 伊織が子どもたちのほうを向いて少し考える。

「おじさん、俺が取った分子どもたちにあげてもいいっすか?」

「……あぁ。もってけもってけ」

「ありがとうございます!」

 伊織が軽く金魚すくいのおじさんに頭を下げて子どもたちのほうに向き直る。


 周りにいた子たちで金魚がほしい子みんなに渡した。

「お兄ちゃんありがとねー!」

「ばいばーい」

 わたしも伊織と一緒に子どもたちに手を振る。


 あの子たち、すごくうれしそうだった。
 伊織は周りを笑顔にできる素敵な人だな。

 そんな人とわたしは両想いなんだよね。
 奇跡だなと思う。


「伊織は優しいね」

「全然だよ! じゃあ行こっか!」

「うん!」


 人混みをかき分けて、花火が上がる場所へと急ぐ。
 もうたくさんの人がいたけど、後ろのほうが空いてたからそこから座って見ることにした。

「わたし、花火大会来たの初めて」

「そうなの?」

「いつもは神社の所で見てただけだから。
 すぐ近くで見れると思うとわくわくする」

 いつもは小さかった花火。
 でも、今日は大きく見える。それも、伊織の隣で。

「伊織は?」

「俺も、はじめて。前は行けなかったから……」

 少し悲しそうな顔をした。
 前っていつのことなのかな?

 そんなことを考えていると大きな音が聞こえた。

 ドン! ドン!

 花火大会が始まったようだ。

 暗かったはずの夜空は明るくて、花がたくさん咲いてるみたいだった



 はじめて近くで見た大きな花火は泣きたくなるくらい綺麗だった。

 それはたぶん伊織が隣にいるからだ。

 花火を見るふりしてこっそり覗いた伊織の横顔はなんだか、儚くて、悲しそうにも見えた。

 伊織のことを見てるとふと目が合う。

「来年も一緒に見ようね」

「……」

 伊織の返事がなくて不思議に思う。
 聴こえなかったのかな?

「伊織?」

「あ、ごめん。なに?」

「ううん。なんでもない……」

 そういって、笑顔で誤魔化した。


 あっという間に花火は終わってしまって、そろそろ帰らないといけない時間。

「帰りたくないね」

 周りの人がぞろぞろと移動する中足を止めてポツリと零す。

「じゃあ帰らないでおく?」

「え?」

「なーんてな! 冗談だよ」

 いつも通りに笑う。

 冗談なのにわたしはなにを期待してたのだろう。
 まだ高校生なんだし、このまま帰らないなんてできるわけないのに。