「今日からの総合は、調べ物学習をします。
まずはその班決めをしたいので、自由に5~6人班をつくってださい」
先生の言葉ですぐ行動する人もいれば、まだ席にいて様子を伺う人もいる。
自由に、か。
正直言ってこういう班決めは嫌いだ。
いままでも大抵残った日と組んできた。
今回も残った人と組むだろう。
はやいところなんてもう班決めを終わって、仲良くおしゃべりをしていた。
いいな。
たくさん友だちいるひとは全然苦じゃなさそう。
羨ましいな。
そんなことを思ってると、
「あおちゃーん。一緒に組も?」
由乃が筆箱を持って、飛んできてくれる。
「もちろん!」
わたしには由乃しかいないから、由乃が来てくれなかったらどうしようかと思った。
でも、来てくれて安堵した。
「そういえば、松永くんとは組まなくていいの?」
「え? あ、うん。颯太くんはほら、ほかの子と組むみたいだし……」
松永くんのほうを見てみると、もう何人か近くに集まっていた。
たしかに、あの中に「入れて」と言って入るのはちょっと難易度が高い気がする。
みんなそれぞれ友だちのところに行ってるのに、隣の高野くんはまだ全然動こうとはしない。
すると、松永くんが高野くんの傍に来る。
「伊織、一緒に組む?」
「あー、ごめんけど、俺はパスで」
どうしてだろう。
だいたい仲良い松永くんと一緒に組むのに。
それを断るなんて。
高野くんはどこにいれてもらうつもりなんだろうと気にしているとふと目が合う。
「あのさ、もしよかったら俺も入れてくれない?」
高野くんは少し遠慮がちにわたしと由乃の前に立つ。
「いいよ」
松永くんとじゃなくて良かったの? とか疑問はあるけど、断る理由なんてない。
由乃も「もちろん大丈夫だよ」と笑う。
「ありがとう!」
そう言って笑う高野くんの顔はわたしにはちょっと眩しいものに見えた。
高野くんと由乃。
少なくともあとふたりは必要だ。
どうしよう、と下を向いて考えていると、上から声が降ってくる。
「水原さんたち一緒に組まない?」
その声のほうにパッと顔を上げる。
声をかけてくれたのはクラスのリーダー的存在である西森さんとその友だちの鵜飼くんだ。
西森さんは学級委員をしていて、しっかり者で、先生からの信頼だって厚い。
でも、友達とよく他人の悪口とかを言ってるのを聞いたことがある。
鵜飼くんは真面目で成績も優秀な優等生だ。
みんなから勉強を教えてといつも囲まれている。
わたしはふたりとも中心的人物すぎてちょっと苦手だ。
「え、あ、うん。いいよ」
嫌なんて言えるわけない。
それに、せっかく声をかけてくれたんだから。
「じゃあこの5人で決まり!」
両手を軽く叩いて、西森さんが大袈裟に笑う。
それからさっそく机を引っ付けて先生から説明の紙をもらう。
「リーダーの名前書くってあるけど、どうするの?」
由乃がみんなに訊く。
こういうときだれもが目を合わさないように下を向く。
リーダーか。
ここはきっと西森さんか鵜飼くんがやってくれるだろう。なんて、わたしは人任せなんだろう。
そう思ってると、「水原さんとかどうかな?」とかいきなり西森さんが言い出す。
「えっ?」
言われると思ってなかったから素っ頓狂な声が出る。
「でも、わたしは……」
リーダーなんてそんな責任がある役割できない。
だから、ごめん。
心の中で言っても、だれも聞いてくれるわけないのにどうしても声に出して言えない。
わたしが黙り込んでると、高野くんが明るく声を上げる。
「じゃあ、じゃんけんで決めたらいいじゃん!
みんなやりたくないんだろうし!」
「それいい!」と隣で由乃が言う。
「まぁ……じゃんけんなら」
西森さんも渋々頷いてくれた。
高野くんと目が合って、にっこり微笑んでくれる。
それはまるで「よかったな!」と言ってくれてるみたいだった。
もしかして、助けてくれたのかな?
じゃんけんの結果、西森さんがリーダーをやることになった。
本人は少し不満そうだったけど「じゃんけんなら仕方ないからわたしやるよ」と言って紙に名前を書いてくれた。
高野くんが言ってくれなかったらわたしがリーダーをやることになっていたと思う。
自分の意見をはっきり言えないこの性格がこんな自分が大嫌いだ。