きみがくれた日常を




「おい、颯太! 
 なんで焼きそば全部食べてるんだよ、俺のは?」

 テントに着くと、伊織が驚いたように話す。
 見てみると、綺麗になくなっていた。


「あ、ごめん。気づいたらなくなってた」

 あはは、と笑う。
 颯太くん、全然悪いと思ってないみたい。

「もう俺が買いに行ったのにー!」

「わたしも……少しもらっちゃった。ごめんね」

「いや、由乃ちゃんは全然いいんだけどさ」

「なんでいつも由乃だけ!」

 その光景を見て、由乃とわたしは目を合わせて笑う。
 伊織と颯太くんのやり取りはいつ見ても面白いなと思う。



「てか、お前らどこに行ってたの?」

「颯太には内緒」

 焼きそば取られたお返しなのか伊織は教えようとしない。
 それどころか、

「でも、すげーいいとこ」

 と無邪気に笑う。

「まじ? なぁ、教えろよ!」

「絶対教えねー」


 べつに大したとこ行ってないけどな。
 そこら辺ぶらぶらしていただけだ。
 でも、わたしにとってもいいところだった。
 わたしが告白できた場所。伊織に自分の想いを言えた場所。
 たぶん一生忘れない。

 伊織はわたしだけに見えるようにいたずらっこみたいな笑みを浮かべていた。

 由乃は結局、颯太くんに告白できなかったのかな。
 ふたりはいつものように話しているだけだった。





 電車の中で、由乃と颯太くんは寝てる。
 結構はしゃいでたし、海で泳いでたみたいだから疲れたのだろう。
 起きているのはわたしと伊織だけだ。

「葵は寝ないの? 疲れてない?」

「大丈夫。なんか寝るの勿体なくて」

 こんなに楽しい夏休み、生まれてはじめてだった。
 来年も4人で来られたらいいな。

 中学の頃はこんなことできなかった。
 中学生のわたしに教えてあげたい。
 高校生になったら、たのしいことたくさんあるよ。
 大切な友だちもできたよって。
 それから恋も。


「伊織。今日はたのしかった?」

「うん」

 満面の笑みで返される。
 その答えが聴けて、安心した。

「よかった」

「俺、葵がいてたのしくないって思うこときっとないから」

「わたしもだよ」

 そう言って笑いあって、揺れる電車の中、そっと手を重ねたのはふたりしか知らない。
 ふたりだけの秘密。



「じゃあ、またな!」

 伊織と颯太くんに手を振って別れる。
 由乃はコンビニに行く用事があるとかでわたしと同じ方向を歩く。

「今日楽しかったね」

「うん。めちゃくちゃたのしかった!」

 想い出話をしてると、あっという間にふたりの分かれ道に来る。
 由乃はわたしのほうをまっすぐ見て言う。

「あおちゃん。今日はわたしのためにありがとね」

「こっちこそありがと」

 目的は由乃と颯太くんの進展のためだったけど。
 わたしもたのしんじゃったし、なんなら伊織に告白しちゃったし、めちゃくちゃ充実した一日だった。


「うん、またね!」

 由乃は告白のことなにも言わなかった。
 だから、由乃が自分から話すまでわたしはなにも聴かない。

 だれだって話したくないことだってある。
 それを無理に聞こうとするなんて、相手の心に無理矢理入っていこうとするのと同じだから。

 わたしは由乃が話したくなるまで待ってるよ。