きみがくれた日常を




 由乃たちとは少し離れた岩に腰をかける。

「伊織。わたしね、やりたいこと見つけたの」

 将来の夢を見つけた。
 最初に話すのはやっぱり伊織がいい。

「ほんと? なになに?」

「わたし、困っている子どもに寄り添ってあげられるような学校の先生になりたい! 
 だから、がんばって勉強して大学行くんだ!」

 学校はたのしいことばっかじゃないし、ときには辛いこともたくさんある。
 でも、わたしは子どもの成長を近くで見れるのがいいなって思ったんだ。
 勉強するのはやっぱり嫌いだけど、これから好きになっていきたい。


「まぁ、まずはお母さんたちに言って神社継げないことの許しをもらわないとだけどね……」

「よかった……」

 伊織が安心したように呟く。

「え?」

「あ、いや。こっちの話。
 応援する。葵はきっといい先生になれるよ!」

「ありがとう」

 うれしい。伊織がそういってくれるならほんとになれそうな気がする。
 まぁ、現実はそんなに甘くないと思うけど。

 しばらく沈黙が続き、波の音だけが静かに響く。



「葵はなにが好き?」

「え、いきなりなに?」

「なんとなく。葵の好きな物知りたいなって」

 目線は海のほうを向けて言う。

「わたし、水色が好き。この海みたいに綺麗で透き通ってるものが好きなんだ」

 小さい頃から透き通ってるものが好きだった。
 よくラムネを飲んで、お父さんにビー玉を取ってもらって太陽にかざしてたな。


「他には?」

「うーん。あと、桜が好きかな」

「俺も花の中ではいちばん好き」

 伊織とぶつかったときの場所桜だったなとふと懐かしく思い出す。


 だれかに好きなものを話したのはじめてな気がする。
 前は好きなものを否定されたらどうしようって思ったら、なかなか言えなかった。

『他人になんて言われても、好きなものは好きでいいじゃん』

 伊織がそう教えてくれた。

 いま思えば、わたしはたくさん伊織に教えられた。
 助けられた。救われてきた。

 伊織がいたから、わたしは前より自分らしくいられてる。
 だから、わたしが。

 わたしが好きなものは。

「あのね、わたし。伊織が好き!」

 べつに伊織になんて思われてもいい。
 想いを返してくれなくてもいいよ。
 わたしの気持ち、伊織にも知っててほしいから。

「……俺も葵が好きだよ」

 思ってもみない答えに目を見開く。
 伊織、初恋の子はもういいってことなのかな?

「ほ、ほんと?」

「うん」

 想いが通じてうれしかった。
 ただそれだけで、それ以上はなにも離さないで由乃たちのほうへ戻った。