きみがくれた日常を




「あれ、葵だけ?」

 伊織が焼きそばをふたつ買って帰ってきた。

「あ、うん」

 頷きながらわたしの隣に腰かける。


「焼きそば好きなの?」

「めっちゃ好き」

 そう言って、えへへと笑う顔にドキッとする。


「でも、先に遊びに行こ」

「え? 冷めちゃうよ? いいの?」

「うん」

 由乃と颯太くんは海の中にいるから、わたしと伊織は少し離れた砂浜を歩く。


「あ、これ綺麗な貝じゃない?」

 ピンク色で、まるで桜の花びらような貝だ。
 伊織も同じことを思ったらしく「桜の花びらじゃん!」と声をあげる。

 桜の花びらみたいな貝を拾おうとその場にしゃがむ。
 すると、パシャッと上から音がして上を見上げる。

「え、いま撮った?」

「うん。撮った」

「消してよ。恥ずかしいから」

「やだ」

 やだって言われても、わたしひとりの写真が伊織のスマホの中にあるのはすごく恥ずかしい。


「じゃあ一緒に撮ろうよ」

 一緒なら少しははずかしくない。
 それに伊織との思い出を写真に残しておきたい。

「撮っても意味ないと思うけど、いいよ」

 どういうことだろう。撮っても意味ない?

 でも、わたしの疑問は伊織の笑顔によってかき消された。
 伊織がスマホを伸ばして、わたしたちはポーズをとる。


「それ、わたしにも送ってほしい」

「じゃあいま送る」

「ありがとう!」

 なんかこういうやりとり彼氏彼女みたいでいいな。
 なんて思ってると、「なんかこういうさ、恋人みたいだよな」と言う。
 考えが読まれたみたいでまたドキッとする。

「……戻ろっか」

「あ、うん」

 何事もなかったように伊織は歩き出す。
 わたしも慌ててその後を追う。



 テントに近くに行くと、由乃と颯太くんがいい雰囲気なのに気づく。
 ふたりで仲良く話しているみたいだ。これは邪魔したらいけないと咄嗟に思う。
 なのに、伊織はそんなのお構いなしテントに近づこうとする。

「伊織、まだ行っちゃだめ」

「なんで?」

 なんで? って。
 もうこういうときになると、察せれないんだから。

「もう、空気読んでよね」

「あぁ……」

 伊織はわたしと由乃たちのほうを交互に見て理解したのか止まる。


「由乃。がんばれ!」

 小声で由乃に向かって呟く。


「ほんといつもだれかのために動いてるよな」

「そんなことないよ」

 わたしは由乃に親友に笑っててほしいだけ。
 もちろん、伊織にも、颯太くんにも。

 関わった人にはできるだけ笑顔でいてほしい。

 そう思ってるだけ。