きみがくれた日常を



 伊織の好きなとこか、言おうとするとどこからか現れたかわからないけど、颯太くんの声が聞こえた。


「なぁ、そろそろ海入らね?」

「入ろ入ろー!」

 由乃が立って、颯太くんの近くに行く。
 わたしも由乃の後を追う。


「え、由乃たちそれで入んの?」

 颯太くんが目を丸くして驚く。
 そんな颯太くんにわたしと由乃は目を合わせて笑う。

「え、なに? 変なこといった?」


「あのね、これ一応水着なんだけど……」

「服みたいでかわいいでしょ?」

 私は上下分かれている水着で、由乃はかわいいワンピースの水着を着ている。
 どっちも私服に近いやつを選んだ。

 海に行く前日に由乃と一緒に買いに行った。
 あまり露出が多いのは嫌ってことでお互い服に近い水着にしよって決めたのだ。


「なんか想像と違ったわ」

 颯太くんはなぜかちょっと残念そうに呟く。

「なにを想像してたのよ!」

 横で由乃が突っ込む。

 ほんと、なにを想像してたのか。
 ビキニとか想像してたのかな? あんな肌出してるのわたしには恥ずかしすぎて絶対着れない。


 周りを見て伊織がいないことに気づく。
 競走終わったはずなのになんで帰ってこないんだ?

「伊織はどこ行ったの?」

「あー、途中で出店見つけてさ、そこでたしか焼きそば買いに行った!」

 颯太くんの指さすほうに目をやると出店が並んでいる。
 気づかなかった。
 伊織、焼きそば好きなのかな。



「あ、そういえば俺、浮き輪もってきた!」

 そう言って颯太くんはかばんの中から畳まれた4つの浮き輪を取り出す。
 人数分持ってきたんだ。颯太くんのかばんがパンパンだったのがこれで納得。

「由乃使うー?」

「あ、うん!」

 颯太くんは由乃に浮き輪と空気入れを渡す。
 空気入れまでもってくるなんて用意がいいな。


「葵は?」

「わたしは……伊織が帰ってくるまでまってるよ」

 由乃と颯太くんがふたりで海に入るならわたしはお邪魔だろうし、わたしだって伊織と話したりしたい。



「葵ってさ、もしかして伊織のこと好きなの?」

 颯太くんがわたしの隣に来て、コソッと告げる。

「えぇ!?」

「驚きすぎ」

「……わかっちゃう?」

 やっぱりわたしってわかりやすいのかな。
 由乃も気づいていたみたいだし。
 伊織もまさか気づいてる? そう思ったら少し心配になった。

「うん。……まぁ、俺は応援するよ。
 伊織とは親友だから」

「ありがとね」

 由乃が颯太くんに向かって叫ぶ。

「颯太くん、行こ!」

「おう!」

 行ってらっしゃい、と由乃たちに手を振る。
 わたしはテントの中に入って伊織の帰りをまつことにした。