「海だー!」

 ようやく海に着いた。
 はじめて来たけど潮風が気持ちいい。

 さっそく、海へ向かおうとすると伊織がわたしのことを呼び止める。

「あのさ、颯太とは友だちみたいだけど……」

「うん、友だち!」

 はじめての男友だちなんだよ。
 中学の頃は全然できなかったし、伊織は友だちというより特別な人だからね。

「あんま仲良くしてほしくないって言ったらきいてくれる?」

「え、なんで?」

 なんでそんなこと言うの?
 わたしの数少ない大切な友だちなのに。

「前と違うことすると未来が変わるから」

 伊織は真剣な顔をしていた。
 だから、なにか理由があるのかもしれない。
 でも、それでもわたしは颯太くんと友だちだから仲良くしていたい。

「なにそれ。どういうことなの? 
 未来が変わったらだめなの?」

「……ごめん。やっぱなんでもないから忘れて」

 伊織、どうしたのかな。
 そのまま由乃たちのほうへ走って行った。

 なんだったのかな。
 わたしは伊織のことまだまだ知らないことだらけだ。




「由乃、がんばってね。告白!」

 わざと強調したように言うと由乃の顔は少し照れた顔になる。

「でも……あおちゃんもでしょ」

「わ、わ、わたしはいいの!」

 急にこっちに話をふるから動揺してしまった。
 それを見た由乃は「動揺しすぎ」と笑っていた。

 わたしはべつに伊織に告白なんて。
 そもそも伊織はわたしのことなんとも思ってないと思うから。

 チラッと伊織を横目で見ると、ビーチボールを膨らませていた。


「なぁ、ビーチボールしよ」

 さっきの話があって気まずいかなと思っていたけど普通に声かけてくれた伊織に少しほっとする。
 気にしていないみたい。

「うん、しよ!」

 少しぎこちない表情で返す。

 それから、男女に分かれてビーチボールバレーをすることにした。
 自分たちの陣地を決め、その中の間で交互に打ち合い、先に落とした方が負けということになった。



「由乃、ナイス!」

 始まって早々由乃が大活躍していて、伊織たちは驚いた様子。

 わたしは由乃と いえーい、とハイタッチをする。
 由乃は中学は運動部だったから運動神経めちゃくちゃいい。

 わたしも由乃に負けないようにがんばらないと。
 来たボールをなんとか打ち返す。
 でも、向こうに届かなかったこともしばしば。

 結局、勝負は引き分けになった。
 でも、みんなでたのしく遊ぶことができたからよかった。



 次はスイカ割りすることになった。

「あおちゃん! みぎ!」

「ええこっち?」

 目隠しをされているから視界は真っ暗で、足が反対方向に向かってしまう。

「葵、それ逆!」

「ええ、どこー?」

 わからないまま足を動かしてると、伊織の「あ、そこ!」という声が聞こえた。

「えいっ!」

 コンと音がして、目隠しを取ると綺麗にすいかが割れていた。

「やった!」

 みんなは拍手をしてくれて、伊織もこっちを見て笑ってくれた。
 いつもの伊織に戻ったみたいでわたしも笑顔でピースを返した。




「めちゃくちゃ美味しい〜」

 みんなで食べるすいかはめちゃくちゃ美味しかった。
 家の中でひとりで食べるすいかとは全然違う。
 こんなにも違うんだと少し驚いたくらいだ。

 ビーチボールにスイカ割り。
 いままでやったことない遊びだらけでもう既に心がいっぱいだった。




「なぁ、伊織。競走しようぜ」

「お、いいな」

 そう言って伊織と颯太くんは向こうへ走っていく。
 どこまで行くんだか。

 その光景を見て、わたしと由乃は目を合わせて笑う。


「ねぇ、由乃は颯太くんのどこが好きなの?」

「えっと……面白くて、場の雰囲気を明るくしてくれるとこかな。
 あと、優しいところも」

 なんか恥ずかしいな、と笑う。

「てか、いつから好きなの?」

「なんか、あおちゃんぐいぐいくるね」

「あ、ごめん。あんま恋バナしたことないからたのしくて」

 友だち同士で恋バナ、一度してみたかったんだ。
 わたしの夢のひとつが叶って嬉しいくなった。

「そっか。中3のときからだから割と最近だよ」

「あおちゃんの話も聴かせてよねー」

 今度はわたしのことに変わる。