きみがくれた日常を



 ガラッと重たい教室の扉を開ける。
 わたしはこの瞬間があまり好きではない。
 なぜなら、教室にいる生徒のほとんどの視線が一気に集まるから。
 注目されると、なにも言えなくなる。

 わたしも高野くんみたいに元気よく「おはよー!」なんて言えたらいいのに。
 そしたらきっとすぐに友だちだってできるはずなのに。

 そのまま視線を落として、自分の席に着く。
 すると、先に来ていた由乃が「おはよっ!」と挨拶してくれた。
 わたしも同じような調子で返す。



「高校生活もだいぶ慣れたけど新しい友だちつくれなさそう」

 はぁ……と少し短めにため息をつく。

「わたしもだよ」

 すかさず、由乃が相槌を打つ。

 もともと友だちをつくるのは苦手。
 中学のころ、正確には、あのときから友だちを信用できなくなった。
 途中で裏切られるくらいなら友だちなんていらない。
 そこからわたしは臆病になってしまったんだ。
 前まで思ったことははっきりなんでも言えたのに。


 クラスを見渡してみると、高野くんが目に入る。
 もうほかの男子とわいわい話していた。
 すっかりクラスの中心的人物だ。

 すごいな。もう友だちつくっている。
 転校生で知り合いもいないはずなのにもうクラスに馴染んでいた。



「由乃、これ借りてた教科書」

 ひとりの男子が由乃の前にくる。
 教科書を渡したのは、昨日から高野くんとよく話してる松永颯太(まつながそうた)くんだ。
 たしか、部活も同じだった気がする。

 結構、騒がしいタイプで、だれとでも笑顔で話す。

「あ、うん」

 いつでもいいのに、と笑いながら由乃はそれを受け取る。

 そのひとはわたしの顔を見てニコッと笑った。
 だから、わたしもペコッと会釈する。



「仲良いの?」

「あ、うん。中学から塾が同じで結構仲良いんだ」

 由乃は松永くんから受け取った教科書を机の中にしまってもまだ松永くんのことを目で追っていた。

 由乃が男子と話すなんて珍しいな。
 男子と話すのが苦手という由乃は、普段あまり男子と話さない。
 そういうわたしもあまり話さないけど。

 きっと、気を許して話せる相手なんだろうな。
 わたしも由乃以外でそんな友だちできたらいいな。