きみがくれた日常を





 遊園地に行く当日。
 わたしと由乃は近くで待ち合わせて一緒に遊園地へと向かっていた。

「ねぇ、由乃はだれを誘ったの?」

「えっと……颯太くん」

 少し顔を赤く染める。
 その顔にピンとくるものがあった。

「え! もしかして由乃、颯太くんのこと」

「秘密ね!」

 由乃が口に人差し指をあててはにかむ。
 その顔は恋している顔だった。

 由乃は伊織のこと好きなんじゃないかって前思ってたから安心した。

 少ししてほっとしてる自分に驚く。
 なんで、わたし安心してるの?
 これじゃあ、まるで伊織のこと好きみたいな……。


『好きだけど、好きじゃない』

 伊織の言葉が頭をよぎる。

 きっと伊織はまだ初恋の子が好きだと思う。
 だから自分に言い聞かせる。
 違う。これは恋じゃないって。


「でも、あおちゃんだって伊織くんのこと」

「え? わたしがなんて」

 最後の方よく聞こえなかった。
 聞き返すと、由乃は「……なんでもないよ!」と微笑する。

 でも、颯太くんなら伊織と親友だし、伊織もきっとたのしめると思う。
 全員仲良いからよかった。



「由乃ちゃんの友だちって颯太だったんだ」

「うん」

 いちばん最後に来た颯太くんに驚いていたけど、うれしそうでもあった。
 やっぱ、全く知らない人より、知ってる人と遊んだほうがたのしいからね。



「まずはジェットコースター!」

「いこいこー!」

 由乃と颯太くんはすごくテンションが高い。
 わたしもそんなふたりに置いてかれないように必死でついていく。

「あおちゃんも行くよね?」

「あ、うん」

 どうしよう。
 ジェットコースター、ちょっと苦手なんだよな。

 小さいころは好きでよく乗ってたんだけど、乗りすぎて嫌いになった。
 でも、もう並んじゃったし、後ろにも人がいる。
 我慢して乗ろうかな、一回くらい。

 そう思ってると、伊織が列から抜けた。

「ごめん、俺はパス」

「なんでだよ、伊織!」

 颯太くんの声を無視して、ひとりで違うとこ行こうとする。


「……由乃、ごめん。わたしは苦手だからパスで!」

「ええ、あおちゃんも!」

 わたしも列から抜けて、伊織の後を慌てて追いかける。


「言えたじゃん、ちゃんと」

「……うん」

 もしかしてまたわたしのために?
 そう思って伊織の表情を見るけど、なにを考えているかはわからなかった。

 ちゃんと自分の気持ちを話すって決めたのにまだはっきり言えない。
 嫌だな、こんな自分。


 わたしが黙っていると、伊織は入口でもらった地図を開けていた。

「葵はどこか行きたい?」

「うーん……」

 辺りを見渡すと、メリーゴーランドが目に入る。
 久しぶりだし、乗りたいな。
 でも、伊織ははずかしいかもしれない。

 頭の中でぐるぐる考えていると、それを見透かしたように伊織がくすくすと笑う。

「大丈夫。俺は葵と一緒ならなんでも乗るよ」

「……メリーゴーランド……乗りたい」

 どう思われるかな。嫌な顔してないかな。
 恐る恐る目を開くと、「うん、行こ!」と伊織が笑ってくれた。


「俺、この馬乗りたい!」

「じゃあ、わたしは隣ので」

 馬に乗ると伊織も子どもみたいに結構はしゃいでた。
 伊織もたのしそうで安心した。