きみがくれた日常を





「お母さん」

 不思議。伊織に背中押してもらっただけなのに、伊織の言葉で安心できる。
 言える!


「あのさ、子猫を飼っちゃだめかな?」

「子猫?」

「うん。捨てられてるのを伊織……友だちと見つけて。
 みんな飼えないって言うから」

「ふふ」

 お母さんが少しうれしそうに笑い出した。

「え、なんか変なこと言った?」

「はじめてじゃない? 葵が動物を飼いたいって言うなんて。
 小さい頃、よくペットショップで犬とか猫とかずっと見てたわよね。
 でも、絶対ほしい! なんて言わなかったのに」

 それは言わなかったんじゃなくて言えなかったんだと思う。
 動物を飼うなんてどうせ許してもらえないと勝手に決めつけてたから。

「じゃあ……いいの?」

「もちろんよ!」

 お母さんの言葉にガッツポーズを心でする。


「この子なんだけど……」

 さっき撮った写真をお母さんに見せると、子どもみたいに目を輝かせていた。

「まぁ、かわいいわね! 
 この子絶対うちの神社の看板猫になるわ!」

 なんだかうれしそう。
 お母さん、猫が好きなんだ。知らなかったな。

「名前はクロっていうみたい」

「黒猫だから? つけた人は安直な発想してるわね」

 さっきのわたしと同じことを言ってる。
 そんな様子を見ておかしくて自然と笑顔になった。
 お母さんもわたしの顔を見るとうれしそうだった。

 それからクロちゃんは我が家へとやって来た。