きみがくれた日常を



「これがわたしのすべて、かな? とりあえず」

「……」

「伊織はもう知ってると思うけど、わたしは弱いんだよ」

 わたし、いままでたくさん逃げてきた。
 だれにも自分の気持ち言わないで、ずっと笑顔を浮かべて生きてきたんだ。
 笑顔は本音を隠すわたしの魔法の道具だった。

「葵は弱くないよ! 普通なら怖くて助けれないよ。
 それにどんな過去があっても葵は葵だから!」

「……ありがとう」

 やっぱり伊織は受け止めてくれた。

 それでもいまのままでいいわけがない。
 わたしの中である決心がついた。


「伊織」

 伊織の名前を呼ぶ。
 なに? と優しい目がわたしを見つめる。

 変わりたいんだ。ほんとは。
 もっと強くなりたい。

「ちょっとずつ自分のことを話せるようにがんばってみる。自分の意見をちゃんともつよ」

 笑顔で隠すのじゃなく、ちゃんと伝えたいことは伝えるんだ。

「ゆっくりでいいからな」

「……うん」

 いつの間にか太陽は沈みかけて、赤い夕日が空を真っ赤に染めていた。


「俺だって由乃ちゃんだって颯太もいる。俺らはなにがあっても葵の味方でいるから。
 葵にはそんな仲間がいるってことだけは忘れないで」

「……うん!」

 わたしにもちゃんと居場所がある。
 わたしの味方でいてくれる仲間が、友だちがいる。

 それだけで自分を何倍にも強くしてくれると思った。