きみがくれた日常を



 伊織はわたしに過去(こうかい)のことを話してくれた。
 だから、わたしも話してもいいかな。
 伊織なら全部受け止めてくれるような気がした。

「わたし……中学のときいじめられてたんだ」

「……え?」

 伊織が吃驚(きっきょう)したようにこっちを向く。


 わたしは思い出すように言葉を紡ぐ。

 中2のとき、わたしは由乃とクラスが離れて最初はひとりぼっちだった。
 でも、声をかけてくれた子がいて、その子とずっと話したり遊んだりしていた。
 うれしかった。由乃以外にもこんなに気軽に話せる友だちができたことが。
 そのときは由乃よりその子と一緒にいる時間のほうが長かったと思う。

 でも、ある日、その子がいじめられるようになった。
 なぜだかはわからない。
 遊びの延長のような感じで教科書を隠したり、ノートを破いたり。些細なことだったが、それが続いた。

 わたしは最初、怖くて助けられなかった。
 でも、その子がひとりで涙を堪えてる姿を見て、その子を助ける決心をした。
 いじめをしているリーダーの子に「もうやめよう!」と言い放った。

 ただ、それだけ。それだけだったのに。
 今度はいじめの標的が変わってわたしになった。
 でも、わたしは耐えられた。その子が傍にいてくれたから。

 でも、ある日。その子が一緒になって、わたしをいじめてくるようになった。
 なぜだかは当然わからない。いじめのリーダーの子がなにかを吹き込んがのかもしれない。
 でも、そんなのはどうでもよかった。

 裏切られたんだ、そう思った。

 わたしが助けたときは「ありがとう! 葵ちゃんはいちばんの友だちだよ」そう言って泣きながら微笑んでくれたのに。

 それから怖くなった。友だちをつくることが。
 どうせ裏切られるくらいなら友だちなんていらない。

「由乃ちゃん……とかに助けたを求めなかったの?」

「由乃はそんなこと知らないよ」

 わたしがそう言うと、伊織は目を開いて驚く。

「な、なんで! 一緒の中学なんだろ?」

「そうだけど。クラスは端と端で離れていたし、わたしが由乃を遠ざけたから」

 巻き込みたくなかったんだ。
 わたしのせいで親友になにかあったらと思うと遠ざけるしかなかった。

 最初、由乃は、どうしたの? とかめちゃくちゃ訊いてきた。
 でも、わたしが冷たい態度を取ったら自然と離れていき話さなくなっていった。
 悲しかったけど、これでよかった。
 由乃に被害がいかないなら。

 中3になれば、由乃とは自然と話せるように戻っていたからよかった。



 わたしがなにもいじめる子たちに対して言わなかったからかいじめは知らない間に終わっていた。
 その後は仲良かったその子と一言も言葉を交わすことはなかった。
 だから、いまどこの高校に行ったのかさえも知らない。

「結局、だれにも言えなかった。いじめのこと」

 伊織は驚いて声も出ないという表情をしていた。

 それからは自分を護るのに必死だった。
 なんでも笑顔で誤魔化して、なるべく自分が傷つかないように常に上辺を繕っていた。