わたしは休日のお昼、伊織と星空公園に来ていた。
　ふたりの家のちょうど真ん中にあるから自然とここに集まることになる。
　子どもたちがブランコで遊んでいたから、今日は屋根のあるベンチに座る。

「ねぇ、葵のこともっと教えて」

　ふいにそんなこと言われて言葉がつまる。

　自分のことを話すのは好きじゃない。話せない。
　伊織が聞きたいことがなにかわからないのに話すのはわたしにはちょっと難易度が高い……。
　だったら、

「じゃあ、訊かれた質問に答えるよ。だからなんか言って」

　そう言葉にする。
　訊かれたことになら答えられるから。
　面接のようなものなら楽だから。

「いや、そうじゃなくて、葵がなにを思ってることとか聴きたい」

「……」

　また言葉が出てこない。

　わたしが思ってること。
　伊織のことをじっと見ると「なんでもいいからさ！」とおどける。


「……苦手なの。自分のこと話すの。
　だって、なにもないから。わたしはなにももってないから」

「そんなことないよ。葵はいつも周りの人ためにがんばれる子だから、なにもないなんて言わないで」

　他人のためにがんばれる。

　ほんとにそうなのかな？
　自分自身に問いかける。
　わたしは、ただ周りの人に嫌われるのが怖いだけ。
　だから、嫌なことでも文句も言わないで進んでやるだけ。
　だから、ほんとに自分のためなんだよ。
　伊織はそれを知らないだけ。




「なぁ、俺、アイス食べたい！」

　急に伊織が思いついたように話す。

「じゃあ買いに行こっか」

　もういきなりなんだから、と心の中で呆れる。


　近くにあるコンビニに向かうと、クーラーが効いていてすごく涼しい。
　外と比べればここはまるで天国だった。

「俺はこれ！」

　伊織はすぐ決めたみたいでさっそくレジに並ぶ。

　わたしもなるべくはやく決めて伊織の後ろに並ぶ。
　すると、伊織が振り返ってこっちを見る。
　なに？　と目線を送る。

「アイスぐらい奢るよ」

「え？　そんな悪いよ！」

「全然いいよ」

「……ごめん」

　わたしが申し訳なさそうに謝ると伊織は「そうじゃないでしょ！」とわたしのおでこをつんと軽く押す。

「こういうときは"ありがとう"だけでいいから、ね」

「ありがとう」

　わたしがそう言うと、顔を綻ばせる。


　伊織はクリームソーダの棒のアイス。
　わたしはチョコミントのカップのアイスを買った。

　それからわたしと伊織は、星空公園に戻ってきた。
　すると、さっきまで公園で遊んでいた子どもたちはいなかった。
　暑いからもう帰ったのかもしれない。
　今度は空いているブランコに腰かける。

　暑い日のアイスは最高だ。
　口の中から冷たくなっていく。