きみがくれた日常を




「大変そうね」

 汗を流しながら、草抜きをしている伊織の姿をみて胸が痛くなる。

「あおい……」

 泣きそうな目で見つめる。
 そんな表情に申し訳ない気持ちでいっぱいだった。


「手伝うよ、なにすればいい?」

 伊織の横に座る。
 すると、後ろから声が聞こえた。

「俺も俺も」

「わたしも!」

 由乃も松永くんもわたしの後をついてきたのか、笑顔を浮かべて隣に座る。


「みんな、ありがとう!」

 泣きそうになりながら笑う伊織の顔が見れて少しほっとした。




「じゃあ水かけまーす」

 ホースを持ってきて、花壇の花たちに水をあげる。
 水を浴びたお花たちは、太陽の光で輝いている。
 そして、うれしそうだった。



「由乃、見て! 虹だよ!」

 お花に水をあげる。
 ホースの水が太陽の光に当たって虹色に輝く。

「わぁ! きれい」

 ちょっとふざけるくらいならいいよね。
 わたしは由乃としばらく綺麗な水を眺めていた。


 由乃が片付けをしに向こうへ行くのと同時に伊織がわたしの傍へと来る。

「あのさ……葵。昨日は」

 また謝るつもりだな。それはもう散々聴いた。
 だから、わたしはそんな言葉もういらない。
 ほしくない。

「えいっ!」

 ホースから出る水を少し取って伊織の顔にかける。

「つめたっ!」

 少し濡れた顔の伊織を見ていたずらっぽく笑う。

「昨日のお返し。もう怒ってないよ」

 散々謝ってくれたんだ。
 それに、伊織と話せなくなるほうが嫌だから。

「ほんと!」

「わたしも水かけちゃったし、今日だってずっと無視し続けちゃった。
 ごめんね」

 そう謝ると伊織はぶんぶんと首を横に振る。

「俺が話しかけても喋ってくれる?」

「うん」

「よかった……」

 そう呟く伊織は一瞬泣きそうに見えた。
 その顔を見て、ごめんね、と心の中でまた謝る。



「水原さん、優しいな。なんなら俺がぶっ飛ばそうか?」

 横から聞いていたらしい松永くんが手をグーにして悪魔のようにほほえむ。


「じゃあ、また今度なにかあったらお願いします」

「もうしない! 絶対しない!」

「あははっ!」

 伊織の必死な顔を見てまた笑みが零れる。
 たのしいな。
 こんなに心から笑えるなんて。