きみがくれた日常を



「葵、課題終わってる? 
 終わってないなら見せてあげようか?」

「由乃ー、ここの問題教えてー」


「葵、今日お弁当……」

「由乃、一緒に食べよ!」

 こんな感じでわたしは今日伊織を避けまくった。

 その結果、今日一日放課後まで伊織と話すことなんてなかった。
 一度も話さなかった日なんてなかったのに。
 伊織は時々こっちを気にしてくれたけど、わたしは応えられなかった。

 散々謝ってるのに許さないで無視し続けるなんて最低だってわかってるのに。
 こういうときにどうやって話せばいいのかわからない。
 普通に? でも、普通ってなんだ?

 でも、もう帰るんだし、今日はもう話せないな。
 このまま話せなくなるなんて嫌なのに、伊織に話しかける勇気はどうしてもない。

 もうわたしのことどうでもよくなっちゃったかな?
 謝ってるのに許さないの嫌な奴って思ったかな?
 だめだ。どんどんネガティブ思考になってきた。

 廊下から走ってきた由乃の声でその思考は一旦止まる。

「あおちゃん! 伊織くん、ひとりで花壇の手入れしてるよ」

「え、どうして?」

 伊織はそんな係もってないはずなのに。

「昨日、プールの中に入って遊んだの怒られたみたい。 それで俺が最初にふざけましたって言ったんだって。ね、颯太くん」

 由乃の返事に横にいた松永くんが頷く。

「そう。俺も手伝うって言ったんだけど、ひとりでやらせてってあいつ言うから」

「……そうなんだ」

 それを聞いて、正直迷った。
 手伝いに行こうかな。
 こんな暑い日に、伊織がひとりで花壇の手入れをしている。

 そう考えてると、わたしの足はもう既に校庭の花壇の先へ向かっていた。