「葵、ごめん! ほんとごめん」

 次の日、教室に入ってからずっとわたしの席の前に立って謝る伊織。

 知らない。知らない。伊織なんて知らない。
 わたし、昨日お母さんにめちゃくちゃ怒られたんだからね。




 昨日のお母さんを思い出す。

「なにをしたら制服がこんなに濡れるの?」

「プールの掃除を……」

「はぁ……。夏だから、洗ってもすぐ乾くからいいけど、もうちょっとちゃんとしなさい! 
 あとあと、ついでだから言わせてもらうけど……」

 それから勉強がどうのこうのって最終的には制服濡れたことと全然関係なくなったんだけど。
 それでも30分は聞かされた。
 お母さん、話し出すと止まらなくなるから困る。
 わたしが悪いから口答えするわけにもいかなく、ただただ苦痛な時間だった。