「はぁ……。疲れた」

 机に顔を伏せる。

 あのあと職員室にいったわたしは先生にしっかり叱られて、雑用を3個もやらされた。

 ほんとありえない。
 まぁ、たしかに。わたしが悪いといえば悪いんだけど。
 今日は始業式だよ。
 だからもうちょっとくらい優しくしてくれてもいいんじゃない?
 ひとり心の中で愚痴る。


「あおちゃん、お疲れさま。朝から大変ね」

 顔を上げると、小学生のときからの親友、佐倉由乃(さくらゆの)がいた。
 そしてわたしの机の上に紙パックのココアをひとつ置いてくれる。

「由乃〜! ありがと!」

 わたしの好きな飲み物だ。
 さすがわたしの好きなものをよくわかっている。

 小学生の頃、同じクラスになって由乃から話しかけてくれた。それからすぐ仲良くなれて、そのときから由乃はいちばんの友達で親友。
 中学のとき、わたしが冷たくして遠ざけていた時期があったけど、それでもまた仲良くしてくれた。話してくれた。
 だから、由乃はわたしの大切なひと。
 この子だけはなにがあっても裏切らないって信じてる。




「ほんと知ってるひとがいてよかったー」

 安堵すると共に零れた本音。親友と同じクラスでよかった。
 これだけで一年間やっていける。

 大袈裟かもしれないけど、わたしにとってクラスに友だちがいることは大切なのだ。
 ひとりにならないためにも。

「わたしもあおちゃんがいてよかった」

 由乃も安心したように呟く。


 わたしたちが通っているのは星ヶ丘高校。

 中学のときから勉強は苦手だったけど、勘だけはよかったから運良くここに入れた。
 そのせいで授業についていけないことが多い。
 この高校は学力に結構力を入れている進学校だ。
 由乃は大学にいくからここを選んだらしい。
 わたしは、大学にいくつもりなんてないけど、家からいちばん近いからここを選んだ。

 だって、わたしの将来はもう決まってるから。
 自分の家の後を継ぐ。ただそれだけ。
 自分の夢なんかもうとっくの昔に割り切っている。



「あ、そういえば。昨日由乃に借りてたペン……」

 昨日、一緒に遊んだときに由乃に借りたもの。

 鞄の中を漁る。
 おかしいな。朝、確かに入れたはずのペンがどこにも見当たらない。

 嘘。もしかして置いてきたかな。
 いやでもちゃんと持ってきたはず。
 思考を巡らすと、あっ!  と思いあたることがひとつあった。

 今朝急いでいてだれかとぶつかったときに落としたのかも。
 鞄、開けっ放しだったからな。どうしよう。

「あおちゃん?」

 由乃が不思議そうに見つめる。



「由乃、ごめん! ペンどこかに落としちゃったみたいで。
 でも必ず見つけるからもう少し待っててくれない?」

「うん。全然いいよ」

 いつでも大丈夫だから、とにっこりと笑う。
 そんな由乃に「ありがとう」と返す。



 ふと隣の席を見ると荷物がなにも置いていない。
 お休みかな?
 気になって由乃に()いてみる。

「わたしの隣の席の子、お休みなのかな?」

「えっと、たしか最近引っ越してきた子だから明日から登校するみたい」

 先生が言ってた、と由乃が思い出しながら説明してくれた。

「へぇ、そうなんだ」

 最近引っ越してきた子か。
 じゃあこの街のことまだよく知らないってことだよね。
 色々教えてあげたいな。
 せっかく隣の席なら、男の子か女の子かわからないけど、仲良くなれたらといいな。

 だれもいない席のほうを見つめそう思った。