きみがくれた日常を



「みーつけた」

 屋上の隅っこでお弁当を広げようとすると上から心地いい声が降ってくる。

「伊織、なんで?」

「葵が教室にいなかったからどこ行っちゃったのかと思って」

 伊織も自分のお弁当をもってお日様のような笑顔でわたしの近くへとやってくる。


「なんでこんなとこで弁当食べてんの?」

「今日は由乃お休みだし、それにわたし、寂しいけどひとりが好きなんだ。
 こういうだれもいないところが落ち着く」

 嘘だよ。ひとりが好きなわけない。
 でも、こう言わないと。伊織が気を遣っちゃう。
 伊織はいつもだれかとお弁当を食べている。
 それを邪魔したくない。

 由乃がいないとわたしはお弁当を食べる友だちさえいない。
 自分が由乃以外にクラスで女友だちをつくろうとしないのが悪いのだけれど。
 でも、いらない。
 後で裏切られるようなら友だちなんていらない。



「じゃあ俺もここで食べよかな」

 わたしの隣に座り、お弁当箱を広げようとする。

「え?」

 思わず、お弁当を口に運ぶ手の動きが止まった。

「あ、迷惑だった?」

「いや、全然!」

 伊織はなんで、なにも言わなくてもわたしの気持ちわかってくれるのかな。
 わたし、伊織に救われてばっかりだ。


「ねぇ、玉子焼き好き?」

「好き!」

 即答で返ってくる。

「じゃあ……あげるよ」

 はい、と伊織のお弁当箱の蓋にわたしの玉子焼きをトンと置く。

「え、いいの?」

「一緒にお弁当食べてくれたお礼。
 ほんとはひとり嫌だったから、伊織が来てくれてうれしかった……よ」

 自分の気持ちを素直に言ってみる。
 伊織の顔を恐る恐る見てみると、少し目を開いていたみたいだけど「それならよかった」と目を細めて笑ってくれた。