きみがくれた日常を



「葵は?」

 今度は興味津々な目でこっちをうかがう。

「うーん」

 困ったな。
 伊織はわたしの答えをたのそうにまってるみたいだ。
 そんな目で見られると、ちゃんと考えないと。

 わたしの将来の夢を星に願うのはなんだか勿体ない。
 それは自分の努力次第では叶うのだから。

 あ、これだ。
 少し考えていい願い事を思いつく。

「伊織がずっと笑顔でいられますように!」

「……っ。なんできみはいつも……」

 伊織は息を呑んでまっすぐこっちを見てる。


 なんで? って。
 そんなの決まってる。

「伊織の笑顔が好きだから」

 伊織はいつもわたしを笑わせてくれる。
 だから、伊織が悲しそう顔するときは、わたしが笑顔にしたいと思ってる。

 でも、わたしには伊織を笑わせることなんてできるかわからない。
 できたとしても表面だけ。心の中までは笑わせることはきっとできないから。

 伊織にはずっと笑顔でいてほしいな。


「いつでも他人優先だよな」

 俺には真似できないくらい、そう言いながらブランコに座る。
 わたしも隣のブランコに腰かけて「そんなことないよ」と苦笑いする。

「友だちや他人を大切にするのもいいけど自分のこともちゃんと大切にしろよ?」

 はじめてだった。
 こんなこと言われたの。

 わたしは自分のこと好きじゃない。
 言いたいことを言えない、伝えたいことも伝えられない、こんな自分が大っ嫌いだ。
 他人に流されて生きてるのだってわたしの悪い癖だ。

 だから、自分を大切にしようなんて思えない。



「俺の前くらい気抜いたら? 家でも我慢とかしてるんでしょ? 
 そんなの……疲れちゃうじゃん」

 べつに我慢してるわけではないけど、つかれるのは確かだ。
 たまに息がつまってしまう。

「俺はずっと笑顔でいる葵が好きだよ。
 でも、無理して笑ってるのは見たくないな。だから、なんでも話してほしい。
 愚痴とかでも全然いいからさ!」

「伊織……」



「え! ちょっとまって! 俺、なんか変なこと言った?」

 気づいたら頬が濡れていた。
 それを見た伊織はすごくあたふたしている。

 伊織はただ優しいだけじゃなくて、わたしの心を救おうとしてくれてるんだ。
 こんな人にはじめて出会った。

「……ありがとう、伊織」

 涙を拭って感謝の気持ちを伝える。
 すると「俺のほうこそありがとう!」と伊織が笑った。
 この感謝の意味、最初はわからなかったけど、後から知るようになる。