外を歩いていると、あの桜の木に出会う。
 おばあちゃんが言っていた桜の木だ。


「桜の妖精さんなんてほんとにいるのかな?」

 桜の木を見上げて問いかける。

 おばあちゃんが嘘ついてるなんて思ってないけど、現実的にはありえない話だ。
 漫画、アニメの中の世界じゃないんだから、簡単には信じられない。

「いるよ」

 伊織が桜の木にゆっくり手をあてて言う。

「え? なんで?」

 なんでそんな断言できるの?
 なんでそんなまっすぐな目で言うの?

「……だって、そう思ったほうが夢があるじゃん!」

 それだけ言って、伊織はまた歩き出す。

 その後を追う前に桜の木をもう一度見て、伊織がしていたようにわたしはこっそり手をあてる。

『運命なんて変わらない。変えられないんだよ』

 いきなり声が聞こえた。
 なにかを諦めたような悲しい声。
 それが桜の妖精さんかはわからないけど、ちょっと怖い。

「葵、どうした?」

 わたしがついてきてないことに気づいた伊織が振り向いてこっちを見る。

「いや、なんでもない!」

 忘れよう。きっと幻聴だから。
 そう言い聞かせて、伊織の隣まで早足で駆けていった。