それから課題を終わらせて、わたしと伊織は家の近くをぶらぶらすることにした。
 少し歩いたあと、伊織がぽつりと言う。

「俺、小6までこの街に住んでいたんだ……」

「そうなの?」

 じゃあ、この街のことよく知ってるんだ。
 ぶらぶらしながら案内しようかと思ったけど、それは必要ないとわかる。

「親の転勤でさ……。俺はこの街が大好きだったから、離れたくなかったけど」

 過去のときの気持ちを思い出すように話す。

 わたしもこの街が大好き。
 わたしの家は神社だし、転勤なんてないと思うけど、もしあるとしたらわたしも絶対離れたくないって思う。

「でも、戻ってこれたんだよね」

「うん。転校する前、ある子に出会って、その子が俺には決められたものに抗うことを最後まで諦めてほしくないって言ったんだ」

 抗うことを諦めない。
 その言葉がわたしの心に響く。
 わたしははじめから諦めているけど、抗うっていう選択肢だってあるんだよな。
 なんて、自分の将来について思う。

「だから、俺は自分の気持ちを親に正直に話した。
 そしたらさ、どうなったと思う?」

「え?」

 急に質問されて、戸惑う。
 わたしがわからないという顔をしていると、伊織は空を見上げて笑う。

「がんばるって言ってくれたんだ。また戻ってこれるようにできる限りの努力はするって約束してくれた」

「じゃあ……その子のおかげなんだね」

 その子がいなかったら、伊織はこっちに戻ってくることはなかったかもしれない。
 そうすれば、わたしと出会うことなんてなかった。
 わたしもだれかわからないその子に感謝したくなった。