きみがくれた日常を



 今日の課題はわたしの大嫌いな数学で、得意だという伊織に教えてもらうために家に呼んだ。


「ここはこっちの式を使って……あーでも葵はこっちを先計算したほうが理解しやすいかも」

 伊織は頭がよくて、教え方もうまい。
 わたしに合った方法で教えてくれる。
 きっと将来は賢い大学へ行って立派な大人になるんだろうな。

「え、できた! ありがと! 
 伊織は教えるのめっちゃ上手いね」

 特に苦手な問題だったのにすぐ理解できて、解けた。

「そう?」

 伊織は反対の方向を向くけど、耳が少し赤くなってるのに気づく。

 照れてるのかな。なんかかわいいかも。


「ふふっ」

 思わず笑ってると、伊織がこっちを向く。

「なに笑ってんの?」

「なーんも!」

 たのしいな。嫌いなはずの勉強なのに。
 伊織が傍にいてくれると心が軽くなる。
 だから、思ったことも思ったまんま言える。


「伊織は学校の先生になったらどうかな?」

「え?」

 伊織は、わたしの気持ちをよく汲みとってくれるから人と関わる仕事が向いているはずだ。

「教えるのが上手いし、きっと向いてるよ」

「俺より葵のほうが向いてるよ」

 真剣な顔で伊織が言う。
 勉強嫌いなわたしが先生に向いてるとは思えないけど、向いてる、その一言を言ってくれたのがうれしかった。

「……そんなことないけどありがとう」


 それから将来の夢の話になって、わたしは自然と自分のことを話していた。


「わたしね、大人になったらこの神社継ぐことになってるの。もう最初から決まってる、運命みたいな? 
 でもね、わたし……」

 言葉を続けようとすると、襖が空いた。