「水原さん、メモ終わらせてきてくれた?」

 西森さんがわたしの席に来て手を出す。
 今度は調べ物学習のメモのことらしい。
 終わったらリーダーの西森さんに渡すことになっているのだけど、実のところまだ半分しか終わってなかった。

「ごめん、まだ……」  

 ボソっと小さく呟くと、

「まだ? もう遅いんだから! 
 あと水原さんだけなんだよ」

 はやく終わらせてよね、と少し不機嫌気味にその場を去っていった。


 これでもがんばってきたほうなのにな。

 ここ最近はあまり睡眠を取ってない。
 昨日だって夜中の3時までがんばって文化についての調べ物をしていた。
 それでも終わらなかった。
 でも、そんな過程があろうがなかろうが西森さんからしたら関係ない。


「葵。大丈夫?」

 横にいた伊織がわたしを心配そうに見つめる。

「なにが?」

「それ、終わる?」

 伊織の目線にはまだ半分しか終わらせてないメモ。


「心配してくれたの? でも大丈夫だよ」

 誤魔化すように笑う。
 一度引き受けたなら最後までひとりでやらないと。

 いままで人を頼らずやってこれたのだから、今回だってちゃんと終わらせれる。



「葵の大丈夫は大丈夫じゃないときに使うんだろ」

「え……」

 だいたいわたしが大丈夫って言ったら、引き下がるのに伊織は引こうとしない。
 それどころかわたしのことをまっすぐ見る。


「まずはだれかを頼ってよ。自分ひとりで全部しようとしないで。
 俺だって、佐倉さんだっているんだから。
 葵はもう充分がんばってるだろ」

 伊織が手を広げる。 
 メモを渡せってことなのかな、いいのかな。
 伊織の手のひらにメモを数枚そっと渡す。


「……手伝って」

「もちろん」

 はじめて言えた気がする。
 だれかを頼ろうとしたことなんてなかったから、少し変な感じだ。



「わたしも手伝うよ!」

「え、由乃まで」

 横から話を聞いていたらしく、元気よく声をかけてくれる。


「あおちゃんがいつだって一番がんばってるのわたしは知ってるよ。
 でも、たまにはわたしを頼ってほしいかな」

 そんな風に思ってくれてたんだ。
 泣きそうになりながら、お礼を言う。

「由乃も伊織も、ありがとう」



「なんなら、俺らで残りやっとくけど」

「うん」

 ふたりの気持ちはもちろんうれしい。
 だけど、やっぱり全部任せるのはちょっと違う気がする。

「ううん、わたしもちゃんとやるよ!」

 ふたりは顔を見合わせて「そういうと思った!」と笑った。