きみがくれた日常を



「水原さん、昨日はごめんね」

 朝一番に西森さんが謝りにくる。
 その真剣さからほんとに用事があったんだとわかる。
「全然大丈夫だよ」と笑顔で返す。


「てか、これなに?」

 西森さんの目はわたしの鞄のチャームを見ていた。
 それは、小6のときの友だちとお揃いで買った"友情"の文字が入った切符型のキーホルダー。
 かわいいし、わたしは結構気に入っていた。

「切符型のキーホルダーだよ。かわい……」

「ええ切符型のキーホルダーなんてあるの? 
 なんかダサくない?」

 かわいいよね、と言おうしたわたしの声を西森さんが遮る。

 これダサいの?
 転校しちゃった友だちとお揃いで買ったものなのに。
 なんだか悲しくなった。


「……ダサいのかな?」

「うん」

「外したほうがいいんじゃない?」

 でも、これは……。
 西森さんの目を見ると、なにも言えなくなる。
 わたしは精一杯つくり笑いをして、

「……そ、そうだね。外してちがうの買ってこよかな」

「それがいいと思う!」

 満足したように西森さんは向こうへ去っていった。
 それと同じタイミングで伊織が来る。


「べつにダサくないよ、それ。つけていたら?」

「いいの! 結構前ので古くなっちゃってるし」

 ぶちっと無理矢理チャームを外して、ポケットの中へつっこむ。

 また笑顔で誤魔化す。
 わたしはこれしか知らないから。