「葵! これあげる。どっちがいい?」
伊織の手には紙パックのココアとレモンティーがあった。
学校の自販機で買ってきたみたいだ。
「余ったやつは俺が飲むから」
ココア。
そう言おうとして、慌てて言葉を飲む込む。
伊織はきっとどっちかを飲みたくて買ってきたはず。
それがもしココアならわたしはレモンティーで大丈夫だし、レモンティーならわたしがココアを飲めばいいだけ。
伊織がわたしに合わせる必要はない。
「……どっちでも」
そう呟く。
もらいものなんだから遠慮しなければ、という考え方が頭を巡る。
「じゃあ、葵はレモンティーね」
「うん」
これでいい。ココアって言わなくてよかった。
レモンティーだって美味しいんだし、なにより伊織が飲みたいならそっちでいい。
「ごめん。やっぱ交換して?」
伊織がわたしの手の中のレモンティーを見て言う。
「え? いいけど……」
「ありがと!」
結局、わたしの手には、飲みたかった大好きなココアがある。
まさか。伊織またわたしのことを見透かした?
じっと見てると、「あ、ココア嫌だった?」と返ってくる。
慌てて首を横に降ると「よかった」と笑みをみせた。