「ただいま」

 玄関を開けて、靴を脱ぎ捨てる。
 すると、すぐ大きな声が聞こえた。

 わたしはすぐ察した。
 お母さんとお父さんが喧嘩してるんだ。

 リビングの扉を開けないで、そのまま自分の部屋に行くための階段を登る。
 部屋のドアを開けて、鞄を机の上に置く。



 はぁ……。
 ため息をついてそのまま後ろにあるベッドに横になる。

 嫌だな。この空気。
 家の中の空気が一気に悪くなって、家に居たくないって思っちゃう。



 みんなで夜ご飯を食べるときも不穏な空気が流れる。

 そういうときは無闇になにかを言うんじゃなくて、心を無にする。
 わたしはいままでもそうしてきた。
 そうすればなにも考えずに済むから。




「ひどいでしょ、お父さん」

 お母さんがお父さんとなんで喧嘩になったかを話す。

 どうやらお母さんに内緒でタンスにお金を隠していたみたいだ。
 わたしからしたら、そんなくだらないことで喧嘩しないでよと思う。


「お小遣いが足りないなら言ってくれればいいのに。
 あの人そういうこと絶対言わないんだから」

「まぁ……そうね」

 正直言って、お父さんが悪いと思うけど、ちゃんとお父さんの気持ちも聞いてあげなよ、と思う。
 いつもお母さんが一方的に怒って、お父さんは意見を言えなくなる。
 お母さんの声が大きいのも原因だと思うけど。

 お母さんは喧嘩する度、わたしに共感を求めてくるけど、わたしはただ聞き流して、お母さんを肯定するだけ。
否定なんかしたら、もっとお母さんの機嫌が悪くなると思う。

 それだけはやめないといけない。