「えー!花純と離れた最悪!」
「ちゃんといい席当てなって言ったじゃん」
「行かないでよ」
「ぜったい嫌」
「薄情者ー!」
大きな声で叫んだ女子はクラス中の視線を浴びることに慣れているのか、まったく気にしていない。
その友達も気にせず鼻で笑って、席を移動し始めた。
「美玲はいちばん前でがんばってね」
「変わって~」
「おい、木下には先生がいるだろ」
「無理っ!!」
先生も間に入り、みんな笑いながら口々に言い合いに参加してより騒がしくなる。
僕は笑うこともなく、横目でそれを見てから外へと視線を移す。
窓側でよかった。
外を見れば、人を見なければ、気持ちが落ち着く。
僕はこれからも、こうしてひとりでいる。
「話したことないね」
誰かの声が聞こえたけど、学校にいる時の声は雑音に過ぎない。
いつもひとりで誰かと話すことがない僕には関係のないことだから。
「ねぇ、聞いてる?」
やけに近くで聞こえる声に、気にしなくてもいい雑音とは言え、気になる域に入ってくる。
「日野瑞季くん!」
「え……僕?」
窓から顔を前に向ければ、わざとらしく怒ったように頬に空気を入れて膨らませている女子。
じゃんけんで勝ち、さっきは大きな声で話してクラス中の視線を浴びていたうちのひとり、成田花純。
「日野瑞季って君以外に誰がいるの?」
確かに、日野瑞季は僕のフルネーム。
このクラスに同姓同名の人はいないから、その名前は僕のことを指すのだけど。
そういう意味ではなくて、クラスメイトに話しかけられたことに戸惑っているんだ。