だからと言って何も言わないわけにはいかないけど、それこそまた失言して無駄に他人を傷つけることも避けたい。


「………嘘ついてないね。僕が勝手に解釈しただけで、嘘の文言はなかった」
「ふっ、そこ?」


迷った結果、この話のスタートに戻る。

成田さんは予想していなかったのか小さく吹き出した。

この重苦しくなった空気には場違いの笑い。


「さすが瑞季くんだね」


このセリフも場違いだ。

僕は今、「さすが」と言われるようなことは何ひとつ言っていない。


「美玲は両親が亡くなったことしか知らないけど、瑞季くんには言っておいた」
「……何で僕に」
「秘密を共有してるからね。それに美玲が知ったら変に気をつかうでしょ?なんだかんだ優しすぎるから」
「僕は気をつかわないって?」
「瑞季くんはよくも悪くも変わらないから」
「優しくすればいいの?」
「ほら、そういうとこ。気をつかってないね」


優しくしようとしたのに、そう言われるのか。

気をつかうことがイコールで優しくすることではないらしい。


「瑞季くんはそのままでいいよ。変わらないでね」
「どこを?」
「他人に興味がないところ。感情が薄いところ」
「僕を何だと思ってるの」
「わたしだけに興味をもってね。瑞季くんの感情はわたしが作ってあげる」
「成田さんに僕が作られるのは嫌だな」
「喜ぶところなのに!」


僕の感情が成田さんに作られでもしたら、成田さんみたいなハイテンションになるのか。

いや、どう考えてもそれは無理だろう。

いくら成田さんでも、こんな僕をそこまで常にハイテンションにできるわけがないな。


「まぁ、できるならやってみなよ」
「言ったな?わたしが瑞季くんをプロデュースするからね」

どうしてこんな話になったのか。
重苦しい空気はどこへやら、いつのまにかいつも通りの空気に戻っている。


「話逸れたね」
「べつにいいよ。むしろそれでいいよ。重い空気は苦手だし」
「それは僕も」
「瑞季くんが瑞季くんで安心した。こんな話して同情されて変にフォローされてずっと重い空気よりいい」


今のあっけらかんとした空気もどうかとは思うけど、成田さんがそれでいいならいい。