そして、先輩が図書室の時計を確認したので、俺も自然とそちらに視線を送ると、時刻はもう図書室を閉める予定の時間になっていた。
「……それじゃあ、そろそろ帰ろうか、慎太郎くん」
俺は、そう告げた先輩の指示に従って、帰りの支度を始める。
だが、この時すでに、先輩の雰囲気が明らかに違っていたことに、このときの俺はまだ、全く気が付いていなかった。
そして、図書室の戸締りを終えた俺と紗季先輩は、二人並んで帰路につく。
今日も俺は自転車で通っていたけれど、先輩に合わせて自転車を降りて一緒に歩いて学校の門をくぐった。
これも、すっかり俺の中ではお馴染みになってしまったルーティンワークだ。
ここから長い下り坂なので、俺は腕に力を込めて自転車が離れないようにしっかりと掴む。結構大変だけど、先輩を置いて先に帰るという選択肢なんて俺にはない。
別に、お互い特に話題もなくて話さないことだって何度もあったけれど、俺はそれが嫌だとか、気まずいと感じたことはない。
むしろ、その時間が心地いいとさえ思っている。
きっと、この感覚は静かな図書室で過ごす、あの時間と似ているからだろう。
ただ、いつもと違って、今日は坂を下ろうとしたところで、太鼓の音がかすかに聴こえてきた。
「……そうか、もうすぐ神社のお祭りだったね」
紗季先輩は、俺に話しかけるというよりは、独り言のように呟いた。
「だが、確か祭りは来週だった気がするんだが……」
「多分、子供たちの練習ですよ。あの太鼓、近所の子供が何人か集まってやってますから」
昔ながらの風習なのか、祭りの太鼓は小学生の子供たちが自由参加で手伝うことになっている。今年もそうやって集められた子供たちが、今も一生懸命太鼓を奏でているのだろう。
「それじゃあ、慎太郎くんも小さい頃は参加していたのかい?」
「いえ、俺はやったことないです。こんな性格ですし」
母さんからそれとなく参加を促されていたけれど「友達と遊びたい」という今では考えられないような言い訳を見繕って参加を拒んでいた。
まあ、実際そのときは実際に遊びにいく友達もいたので、嘘は言っていない。
確か、翠はちゃんと小学生の間は毎年太鼓役として参加していたはずだ。無理やり俺まで手伝わせようとしたのを、必死で逃げていた記憶がある。
ただ、今の会話で、少し気になることがあった。