ルイスの復讐に半分は協力すると決め、三日が経った。

 行き場のないエマとアリアは、リリの家に居候をすることになったが、エマとアリアの心の距離は遠くなる一方だった。

「居心地が悪そうだね、アリア」

 開店前、リリが準備している中で、アリアはカウンター席で顔を伏せている。

「ここまでエマに嫌われるのは初めてで、すごく心が……痛いです……」

 エマと話せない状況に、アリアは耐えられなくなりつつあった。

「どうしてエマはあそこまで怒ってるんだか」

 リリの質問に、アリアはゆっくりと身体を起こす。

 その表情の暗さに、心配せずにはいられない。

「エマは、師匠の魔法が好きだったんです。自分も使いたいと思うほどに」

『お母さん、どうして私は魔法が使えないの?』

 記憶を封印された数年後の、エマの純粋な質問。

 マチルダはエマを抱きしめ、アリアはエマの顔が見れなかった。

 その疑問は、ずっと忘れられない。

「マチルダは、魔法を封じたことを後悔していそうだね」

 その姿が容易に想像でき、リリは切なそうな笑みをこぼす。

「きっと、封じる前から後悔していたと思います」

 その一言に、アリアの伏し目がちな表情に、どう返すのが正解なのか、リリにはわからない。

「……そもそも、どうしてエマの魔法を封じることになったんだい?」

 リリは詳しい事情は知らなかった。

 この流れで内容を濁すことはできそうになく、アリアはエマの魔法を封じることになった一連の出来事を話した。

「なるほど……魔法や記憶が封じられても、エマの優しさは変わらなかったってことだね」

 誰も傷つけたくない。
 誰かを傷つけるような力の使い方はしたくない。

 そんなエマだからこそ、選ぶしかなかった切ない選択肢。

 なにを思っても覆らない過去に、リリはそう言うしかできなかった。

 すると、ドアが開く。
 エマとノアが買い出しから戻った。

「おかえり、エマ、ノア」
「……ただいま」

 さすがに名前を呼ばれておきながら無視をすることはできず、エマは無愛想に言った。

 そしてアリアと目を合わせないようにしながら、カウンターの中に入っていく。

「ノア、ルイスは?」

 店の壁に張り付くようにして歩くノアは、悪いことをして気付かれたくないように見えた。

 それを、リリは逃がさなかった。

「えっとー……」

 言いにくそうにするノア。

 アリアはノアが続きを言うより先に、立ち上がった。

「探してくるよ。どの辺にいる?」
「あ、案内します!」

 リリに怒られることが相当嫌らしく、ノアはリリに呼び止められる前に、店を出ていった。
 アリアはその背を追う途中、横目でエマを見るが、エマはアリアのほうを一切見ていなかった。

 本当に嫌われてしまったのかもしれない。

 その事実に打ちのめされそうになりながら、アリアは店を後にした。

「アリア、泣きそうになってたけど?」

 リリに言われても、エマはただひたすら、今買ってきたものを足元の冷蔵庫に入れていく。

「エマ、アリアだって悪気があって隠してたわけじゃないんだ。許してやりなよ」

 冷蔵庫のドアを閉め、ただ立ち上がる。

「……わかってる。でも、怒ってるわけじゃないの。どうすればいいのかわからなくて……」

 リリはそっとエマの頭を撫でる。

 野宿が続いて傷んでいた黒髪は、少しだけ元気を取り戻したらしい。

「お母さんたちが、嫌がらせでこんなことをするなんて思ってない。きっと、なにか理由があった。それはわかってるの……」

 それでも、前のようにアリアに接することができない。

 エマはどうするのが正しいのかわからず、迷い、避けるという道を選んでしまった。

 リリは悩み、苦しむエマをそっと抱き寄せる。

「きっと、時間が解決してくれる。今までのように、アリアと笑い合える時間が戻ってくるよ」

 根拠はなくとも、リリの力強い言葉に、背中を押される。

 リリの言う通りになる。

 不思議と、エマはそう思った。