しかし、一度話し始めれば抵抗心は薄れた。

「魔法使い狩りが始まってからすぐ、マチルダはこれを渡しに来て、自分になにかあれば、娘と弟子を頼むって言ってきたんだ」

 それはアリアがマチルダに言われた言葉に似ていた。

『私になにかあれば、エマを連れて二つ隣の街にある酒場に行きなさい。そこの店主、リリを頼るの。お願い、アリア。エマを絶対守って』

 その強い瞳に、嫌だと言えなかったのは、記憶に新しい。

「リリってそんなに頼りになるか?」

 ルイスの物言いは喧嘩腰でしかないが、リリはその怒りのような気持ちは流して、話を進めていく。

「私というより、私の情報網だろうね。エマが魔法使いであることを隠せるようにしてほしいって言ってたから」
「なんの」
「あの、少し気になっていたんですけど……どうやって魔法使いの存在を見つけているんでしょう……?」

 ルイスが質問を重ねようとしたとき、エマが手を挙げた。

「魔力だよ。魔法を使える人には、魔力がある。その力がある程度強い順に捕まってるって、師匠が言ってた」

 アリアが答えると、エマは気まずそうに頷いた。

 エマは、魔法が使えることを隠されていたこてに対して、どう対応すればいいのか、いまだにわかっていなかった。

「ということは、マチルダさんの魔法が解けてしまうと、エマさんも捕まってしまうってことですか?」

 ノアの質問に、リリは静かに頷いた。

 そんな現実が待ち構えていることは考えていなかったようで、エマの表情に恐怖の色が混ざる。

「でもそれはマチルダが望むことではない。マチルダは、自分の魔法の効果がなくなる前に、別の魔法使いにエマの魔法を封じさせるつもりだったんだ。それなのに」

 リリは鋭い視線でルイスを見る。

 嫌な予感がしているようで、ルイスはその視線に気付かないフリをした。

「なんで話してしまったんだ、バカルイス」

 普段からよく怒られるルイスだが、さすがに今回は笑って流せなかった。

「ライアンを殺すには、魔法使いの力が必要だと思ったから。力を借りたいって言っただけだ」

 ルイスは一切言葉を濁さず、正直に話した目的を伝える。

 その理由に、リリは言葉を返さない。

 どんな言葉を返せばいいのか、迷っているようだ。

「ねえ、ライアンって?」
「ルイスさんが探している、死者を甦らせた魔法使いです」

 会話に入りにくいと感じたアリアは、小声でノアに聞いた。

 その簡潔な説明に、頷きながらも疑問は尽きない。

 だけど、ルイスとリリの険悪な雰囲気に気圧され、それ以上は聞くのに躊躇った。

「ルイス……あんたの復讐に、エマを巻き込むんじゃない」
「でも、チビ……」

 リリに睨まれ、ルイスは言い直す。

「エマだって、復讐したいはずだ。ライアンがその魔法を使わなければ、母親が死ぬことはなかったんだから」

 ルイスとリリは、エマを見た。

 二人を交互に見て、答えを求められていると理解する。

「私は、誰かを傷つけるような力の使い方は、したくない」

 リリは望み通りの答えで、勝ち誇った顔をする。

「でも、いつまでも理不尽な魔法使い狩りが続くのも、イヤ」

 次はルイスの番。

「お二人とも、その悪者のような笑みはやめてください」

 止めたのは、ノアだ。

 小さな子供に指摘され、二人は舌打ちをする。

「ねえエマ、自分がなにを言ってるか、わかってる?」

 そんな三人を無視し、アリアは心配そうに言った。

 だが、エマはまるで反抗期でも迎えたかのように、アリアに冷たく当たる。

「わかってる。安心して、アリア姉には迷惑かけないから」

 そういう問題ではない。

 そう思っても、心の壁を感じてしまい、これ以上言ってしまうとさらに嫌われるような気がして、言えなかった。