四人の目的地である酒場は営業時間外のようで、店の扉に『close』と書かれた看板が掛けられている。
しかしルイスは一切気にせず扉を開けた。
ルイスの姿を見た女性は、ルイスを退かせ、その後ろに隠れていたエマを見つける。
エマはなにが起きているのかわからず、突き飛ばされて机にぶつかるルイスを心配しながらも、肩に手を置いてきた女性を見上げる。
彼女はエマの髪に触れ、瞳を見つめ、その表情に安心の色を浮かべる。
「黒い髪に紅い瞳……あんたがマチルダの娘、エマだね?」
その確認にエマが頷くと、彼女はエマに抱き着く。
「無事でよかった……」
「おい」
彼女の安心の時間を邪魔するような、低く怒りの込められた声を聞き、彼女はエマから離れる。
最初に見えた弱った顔は、幻だったのではないか。
そう思うほどの凛々しい顔が、そこにはある。
「おい? それは誰を呼んだんだ、ガキ」
ルイスはゆっくりと視線を逸らし、背中を向けた。
彼女はそんなルイスを鼻で笑う。
そして振り向くと、思わず姉御と言いたくなるほど頼れる笑みを浮かべていた。
「さあ、エマ。アリア。疲れただろう。なにか食べるものを用意するから、こっちにおいで」
エマとアリアは言われるがまま、カウンター席に向かう。
ノアはルイスの元に行くが、ノアが話しかけても、ルイスは返答しない。
その機嫌の損ね方は子供のようだ。
「自己紹介が遅れたね。私はリリ。昔、この街でマチルダに助けられて以来仲良くしていたんだ。マチルダがこの街を離れてからもやり取りをするくらいの仲でね」
リリはエマたちの前にサンドイッチを並べる。
久しぶりのちゃんとしたご飯に、エマのお腹が鳴る。
恥ずかしくて顔を赤くするそれすら可愛らしく、リリは微笑む。
「気にせず食べな」
「リリさんのサンドイッチは最高に美味しいんです。きっと、元気が出ますよ」
ルイスの相手を辞めて、ノアはエマの隣に座る。
その元気な笑顔に背中を押され、エマはサンドイッチを小さく齧った。
「おいしい……」
エマの幸せそうな声に、アリアは嬉しさのあまり泣きそうになったけれど、必死に堪え、アリアもサンドイッチを食べる。
「美味しいね、エマ」
エマは頷き、また齧る。
エマが、少しでも前を向いてくれた。
アリアはそんな気がして、エマを連れ出して、ここに来てよかったと思った。
◇
「リリさんは、どうして私たちがここに向かっているとわかったんですか?」
食べ終えると、アリアはそう聞いた。
しかしリリはエマを見て、答えにくそうにする。
「教えてやれば? 隠しているほうが残酷だってこともあるだろ」
後ろで無意味に左手首の包帯を弄りながら、ルイスが嫌味のように言った。
アリアがルイスを睨み、エマが視線を落とすところを見て、リリは道中に何があったのか、なんとなく察した。
「ルイス、エマの魔法のこと、喋ったね?」
「さあ、なんのことやら」
とぼけた返しをするが、誤魔化せていない。
リリはため息を一つつく。
「マチルダは魔法使い狩りが始まってすぐ、うちに来たんだ。そして、私にこれを預けた」
リリの手のひらに乗っているのは、破壊された小さな紅色の水晶。
壊れる前はきっと綺麗なものだったのだろう。
そんなことを思いながら、エマはそれを見ていた。
「これは?」
「マチルダの命が絶えると、壊れる。そういう魔法道具」
エマの表情が固まる。
それはマチルダがこの世にいないと言い切ってしまったようなもの。
リリが話すのを躊躇ったのは、これが理由だった。
しかしルイスは一切気にせず扉を開けた。
ルイスの姿を見た女性は、ルイスを退かせ、その後ろに隠れていたエマを見つける。
エマはなにが起きているのかわからず、突き飛ばされて机にぶつかるルイスを心配しながらも、肩に手を置いてきた女性を見上げる。
彼女はエマの髪に触れ、瞳を見つめ、その表情に安心の色を浮かべる。
「黒い髪に紅い瞳……あんたがマチルダの娘、エマだね?」
その確認にエマが頷くと、彼女はエマに抱き着く。
「無事でよかった……」
「おい」
彼女の安心の時間を邪魔するような、低く怒りの込められた声を聞き、彼女はエマから離れる。
最初に見えた弱った顔は、幻だったのではないか。
そう思うほどの凛々しい顔が、そこにはある。
「おい? それは誰を呼んだんだ、ガキ」
ルイスはゆっくりと視線を逸らし、背中を向けた。
彼女はそんなルイスを鼻で笑う。
そして振り向くと、思わず姉御と言いたくなるほど頼れる笑みを浮かべていた。
「さあ、エマ。アリア。疲れただろう。なにか食べるものを用意するから、こっちにおいで」
エマとアリアは言われるがまま、カウンター席に向かう。
ノアはルイスの元に行くが、ノアが話しかけても、ルイスは返答しない。
その機嫌の損ね方は子供のようだ。
「自己紹介が遅れたね。私はリリ。昔、この街でマチルダに助けられて以来仲良くしていたんだ。マチルダがこの街を離れてからもやり取りをするくらいの仲でね」
リリはエマたちの前にサンドイッチを並べる。
久しぶりのちゃんとしたご飯に、エマのお腹が鳴る。
恥ずかしくて顔を赤くするそれすら可愛らしく、リリは微笑む。
「気にせず食べな」
「リリさんのサンドイッチは最高に美味しいんです。きっと、元気が出ますよ」
ルイスの相手を辞めて、ノアはエマの隣に座る。
その元気な笑顔に背中を押され、エマはサンドイッチを小さく齧った。
「おいしい……」
エマの幸せそうな声に、アリアは嬉しさのあまり泣きそうになったけれど、必死に堪え、アリアもサンドイッチを食べる。
「美味しいね、エマ」
エマは頷き、また齧る。
エマが、少しでも前を向いてくれた。
アリアはそんな気がして、エマを連れ出して、ここに来てよかったと思った。
◇
「リリさんは、どうして私たちがここに向かっているとわかったんですか?」
食べ終えると、アリアはそう聞いた。
しかしリリはエマを見て、答えにくそうにする。
「教えてやれば? 隠しているほうが残酷だってこともあるだろ」
後ろで無意味に左手首の包帯を弄りながら、ルイスが嫌味のように言った。
アリアがルイスを睨み、エマが視線を落とすところを見て、リリは道中に何があったのか、なんとなく察した。
「ルイス、エマの魔法のこと、喋ったね?」
「さあ、なんのことやら」
とぼけた返しをするが、誤魔化せていない。
リリはため息を一つつく。
「マチルダは魔法使い狩りが始まってすぐ、うちに来たんだ。そして、私にこれを預けた」
リリの手のひらに乗っているのは、破壊された小さな紅色の水晶。
壊れる前はきっと綺麗なものだったのだろう。
そんなことを思いながら、エマはそれを見ていた。
「これは?」
「マチルダの命が絶えると、壊れる。そういう魔法道具」
エマの表情が固まる。
それはマチルダがこの世にいないと言い切ってしまったようなもの。
リリが話すのを躊躇ったのは、これが理由だった。