「私が、魔法使い……」

 エマの独り言に、アリアは説明をすればいいのかわからなかった。

 当然、矛先はルイスに向かう。
 アリアはルイスに詰め寄り、胸倉を掴んだ。

「お前、どういうつもりだ」
「どうもこうも、いずれわかることを隠す必要はないだろ」

 淡々と話すルイスが気に入らなかったが、それに対してアリアは言い返せなかった。

 そんなアリアを、エマは混乱した目で見つめる。

「アリア姉、私が魔法使いっていうのは、その人のウソじゃないの?」

 エマを見て、視線を泳がせ、目を伏せた。

 その仕草は、エマの質問が正しいと肯定しているようなものだった。

 わかりやすい動揺をするアリアを、ルイスは嘲笑する。

「ちゃんと教えてやれよ、お姉サン」
「うるさい。お前になにがわかる」

 わかりやすい挑発に乗っかり、ルイスはさらに嘲るかと思えば、笑顔が消える。

「なにも知らねえし、興味もねえよ。俺はただ、そのチビの力がほしいだけなんだから」

 ルイスは鬱陶しいと言わんばかりに、アリアの手を解く。

 アリアの敵対心は消えないが、また胸倉を掴むようなことはしなかった。

「私の力を?」
「ああ。俺は死者を甦らせる術を使った魔法使いを殺したい。だが、どれだけ武術を鍛えたところで、魔法には敵わない。だから、魔法を使える人間がほしい」

 ルイスはまっすぐ、エマの眼を見る。

 未だに情報を整理しきれていないエマは、どう反応するのが正しいのか、まるでわからなかった。

「だったら、エマじゃなくてもいいだろ」

 ルイスの目的を聞き、エマが力を貸すことに、当然のようにアリアは反対だった。

「もうほとんどの魔法使いが国に殺された。殺されていないのは、魔法を使って国から逃げ隠れる魔法使い。当然見つけられない。だから、まだ国に把握されていないチビの力が欲しい」

 ルイスの言葉選びは、何度もアリアを腹立たせる。

 しかしアリアが今一度文句を言おうとしたところを、エマが遮った。

「私、誰かを傷付けたりするのは、イヤ」

 先程までの弱々しいエマはいなかった。

 その瞳に宿る力強さに、ルイスは惹かれる。

 エマの力はきっと、役に立つ。

 根拠もなく、そう確信した。

「優しいお嬢サマだな。俺が探す魔法使いのせいで、お前の母親は殺されたってのに」

 エマは目を見開く。

「まさか、魔女狩りの原因を知らなかったのか? お前、隠しごとされてばかりだな。よほど大事にされてきたのか、それとも信用されてなかったのか」

 その言葉は聞き捨てならなかった。

 アリアは剣を抜き、ルイスの首元に突きつける。

「お前、いい加減その口を閉じろ」
「そうですよ、ルイスさん。言い過ぎです」

 ずっと黙って聞いていたノアにまで言われ、ルイスは面白くなさそうにする。

「チビ。お前はどうしたい。この女剣士に守られながら生きるか? それとも、俺と一緒に魔法使いを殺すか?」

 エマは、守られ続けるのも、誰かを傷付けるのも嫌で、どちらの選択も選びたくなかった。

「私は……強くなりたい。誰も傷付けなくていいように。私みたいに苦しむ人を減らせるように」

 エマの選んだ未来を、ルイスは鼻で笑う。

 だが、嫌いではないと言っているようだった。

 その横で、アリアはエマが魔法を使えなくなった数年前の出来事を思い出していた。