マチルダの旧友と聞き、アリアは少しだけ警戒心を解いた。

 というのも、アリアが向かっていたのが、リリが経営する酒場だったからだ。

「どうしてこの子がエマだとわかった」
「女二人組で、片方は剣士。片方は黒髪で赤い眼をしている。ここに来るには、人目を避けるために山道を通るだろう。リリさんに、そう聞いていたんです」

 それだけ詳しい話を聞けば、信用するしかなく、ようやく、アリアは剣を下ろした。

 緊張感からの解放で、ノアは安堵のため息をつく。

「では、一緒に行きましょう」

 アリアは背後にいるエマを見るが、エマは自分のことが話題に上がっていたにも関わらず、無関心な表情をしている。

 いつまでもエマの笑顔が戻らないことが気がかりではあったが、ここに留まり続けるのは危険であるため、エマの手を掴み、立ち上がらせる。

「人形かよ」

 されるがままのエマを見て、ルイスが呟いた。

 すかさず睨みつけるアリアと、ルイスを肘で殴るノア。

 若干理不尽な反応に舌打ちをしながら、ルイスは先を行く。

「ルイスさん、エマさんは大切な人を失ったばかりなんですから、もっと優しくしてあげましょうよ」
「俺が? なんのために」

 その提案を冷笑し、アリアに引っ張られながら歩くエマを横目で見る。

「守られるのが当たり前だと思っているような奴、嫌いなんだよ」
「リリさんに怒られても知りませんからね」

 ノアは怒りを込めて言い、エマたちのもとに行く。
 ルイスはただ一人、先を歩き進める。

 しかしそのスピードは、後ろの三人のことを考えているように感じる。

「悪い人では、ないんですよ」

 ルイスの背中を見ながら、ノアは言う。

「あれで悪い人じゃないっていうのは、説得力が……」
「たしかに。でも、本当に面倒見がいいんですよ。ルイスさんには妹さんが」

 ノアの言葉を止めたのは、ルイスの剣だった。

 まっすぐと、ノアの首元に伸びる。
 アリアのとき以上の殺気に、ノアは唾をのむ。

「お喋りがすぎるようなら、その舌を切り落としてやる」
「……すみません」

 ルイスは剣を下ろし、また一人で進んでいく。

「ねえ、本気であの人が悪い人じゃないって思うの? あんなことをされても」
「今のはボクが悪いので」

 アリアはノアが無理しているように見えた。

 だが、ノアにそう言われてしまった以上、さらにルイスを責めることはできなかった。

 すると、エマが小走りで前に出た。

「エマ?」

 アリアが呼んでも、エマは止まらない。

 そして、エマはルイスの隣に立った。

 その場の全員が、エマの行動理由がわからなかった。

「後ろの女剣士に守られてなくていいのか」

 ルイスの嫌味を、ただ頷いて流す。

 ルイスはますますどう扱えばいいのか、わからなくなる。

「さっき、守られるのが当たり前だと思ってる奴って言ってた。私、当たり前だとは思ってないけど、私には力がないから、お母さんを守れなかった。これから先、アリア姉も守れなくなる瞬間が来るかもしれない。私は、それがイヤ」

 にじみ出る悔しさに、ルイスは笑う。
 まるで、気に入ったと言わんばかりに。

「じゃあ、強くなるしかないな」
「私は魔法を使えないから、剣を教えて」

 その言葉に対して、反応は三者三様だった。

 アリアは驚き、止めようとする。
 ノアは首を傾げる。

 そして、ルイスも首を傾げ、鼻で笑った。

「お前みたいなチビに剣は無理だ。第一、お前は魔法使いだろ」

 ルイスのその一言は、マチルダとアリアの努力を打ち砕いた。

「私が、魔法使い……?」

 誤魔化すことなどできそうにない状況に、アリアはただ困惑していた。