Side朝陽

そこはコンビニと、小さな飲食店しかないサービスエリアだったが、車の中で話す分には十分だった。

トイレに連れるために葉を起こしてしまうと、ぐずるだろうということで、先に本題を済ませることにした。

葉はよだれを垂らしてぐっすり眠っているので、それで問題はなさそうだ。

「どういうことだよ、藤岡のせいって」
「これ見て」
藤岡に渡されたのは、藤岡のスマホ。
誰かとのメッセージのやり取りの画面だった。LINEではなさそう。
「それ、インスタのDMってやつなんだけど……」
「DM?」
俺はインスタのことはよく分からなかった。
「ダイレクトメッセージ。インスタで繋がっている人とかとやり取りすることができるんだけど、その人、かなり気になること言ってるんだよね」
「その人って……」
「さくって人」
「知り合い?」
「インスタでよくファボってくれる人で、相互フォローしてるんだよね」
ファボ?
相互フォロー?
よく分からない用語が飛んできた。
これ以上質問をすると、話の腰を降りそうだったので、そこは後で聞くことにした。
以前教えてもらった方法で、プロフィールページを見てみる。
投稿している写真の数は少ない。

「この人が何?」
「最初は、私と同じシンママの立場だったから、情報共有するためっていう名目でたまにこうやってやり取りするようになってたんだけど……ここ見て」

藤岡が指さした文面はこれ。

<さく>
早いですね!普通結婚式って、もう少しじっくり決めるものですよね

「これは?」
「私が凪波のドレス姿をUPした日に送られてきたメッセージなんだけど」
「何か問題があるのか?普通の文章に見えるけど」
「私さーインスタに、凪波の結婚式がいつ決まったかとか、書いてないんだよね」
「……どう言うこと?」
「幼馴染の結婚準備中とだけしか書いてないわけよ、投稿に。なのにこの人、ピンポイントでこの結婚が決まった時期について、確信があるように話しかけてきてさ……」
「でもお前、普通に返してるじゃん」
「その時は頭回らなかったんだよ〜。でもこの投稿の後に、一路朔夜が確信をもってうちらの地元に来たって言うじゃん?どうやって調べたんだろ〜って思ってた時に、この投稿を思い出して……」
「おい、じゃあお前まさか、あいつはお前とのこのやり取りだけで確信を持って来たって言うんじゃ……」
「まさか、それだけじゃないとは思うけれど……でも、このさくって人、実はこのやりとりの後に一切ファボくれなくなって……」

ファボの意味はわからないが……連絡が取れなくなったということなのだろう。

「だから、たぶん私のせい……かな〜と」

りんご園の広報戦略を任せる話になった時に、俺はSNSについて全く詳しくなかったが、藤岡が自分からSNSの危険性をプレゼンしたので、安心しきっていたが……。

「お前……SNSにはあれだけ注意をしないとって……自分で言ってたじゃないか……」
「まさかこんなことが自分に起こるなんて思わなかったもので……」

そうは言っても、俺の中ではまだ色々ひっかかっていた。

「そもそも、お前が凪波の友人だって……あいつが気づかないと意味がないよな」
「そう!私もそれ考えて、まさか……って思ってて、確信持てなかったんよね〜……」

そう言うと、実鳥は手帳を取り出して、白紙のメモページを開き、ペンで情報の整理を始めた。

「私が世の中に出している情報は、ここのインスタの情報と、りんご園のSNSだけ。あと、海原に関する情報だけで言えば、りんご園について取り上げてくれたメディアの情報と、りんご園に来てくれた個人の投稿くらい。それは一通りエゴサして調べたけど、特に凪波と繋がる要素は一切なし。せいぜい、りんごの凪の名前くらい」
「ということは……」

どういうことだ?
いまいち俺はぴんとこない。

「まあ、私も個人が特定しやすい情報を出したことは反省するものの、私のことに一路朔夜がまず気づかない限り、彼は私たちは決して辿り着かない」
「つまり……一路朔夜は何らかの方法でお前のことを調べ上げたってことか?」
「もしかすると海原、あんたのことも……」

そう考えると、初対面の時でも、すでにあいつが俺の顔だけを見て対抗心剥き出しの顔になった理由は説明がつく。でも……。

「一体どうやって、俺達のことを調べたって言うんだ……」
「最も可能性があって、確実なのは……凪波が私達のことを一路朔夜について話したということだけど……」

つまり、凪波は俺達と一切連絡を取らない間も、俺達のことはあいつに話していた……ということか。
確かにそう考えたほうが、色々繋がりはするが……。

それほどまでに、あいつと凪波の距離が近かった、ということを考えると、胸が苦しい。

「まあ……でもそれにしては不可解な点が多すぎるけど」

藤岡はそう言うと、メモに記憶喪失状態と追加する。

「どうして凪波は記憶をなくしたのか。少なくとも、今の凪波はあの人のことを覚えてはいない。それはどうしてか。あの人は凪波の記憶喪失に関係してるのか……」

「それはりゅ……」

俺は、流産の事実を言いそうになって口を塞いだ。

「りゅ……なんだって?」

凪波が流産した事実は、藤岡には黙っていた。家族の間だけの秘密にしようということ、凪波の母親から念を押されたから。

「ねえ、何?海原?ヒントになるかもしれない。教えて」

俺は、1人で抱えることが苦しくなった。

「……流産したんだ……」
「……何だって?」
「だから、凪波は、見つかった時に流産した直後だった……らしい」
「え?それって……一路朔夜の子供をって……こと?」
「まあ……そうなるよな……。で、医者の話では、その時のショックで記憶をなくしたんじゃないかって……」

藤岡は俺の話を黙って聞きながら、何かを考えている様子だった。

「あのさ……色々気になることがあるんだけど……1個どうしても気になることがあるんだけど……」
「何?」
「流産のショックで記憶喪失になる……っていうのはまあ……自分のことを考えたらそうなるかもなって思うから……そこはまあいいんだけどさ……」
「ん?どういうこと?」
「確か……凪波が駅で見つかって……?それで、身元を調べたり身体検査したりして………ってことだったよね……」
「……ああ、そうだけど……」
「確かに、流産して3週間以内は、妊娠検査薬で反応は出るとはネットでも見たことはあるけれど……」
「それが……どうしたって言うんだよ……」
「そもそもなんだけど……いや、本当にやってる可能性もあると思うけど……」
「だから何だよ!」

藤岡は、首を傾げながら

「身元不明の女性の検査で、ピンポイントで妊娠検査薬とか……妊娠につながる検査……普通するの?」