Side朝陽

窓から見える太陽と周囲の空は、少しずつ赤く染まっていく。
それを見ながら、俺は大きなため息を1つつく。
後部座席では、藤岡と葉が眠っているため、実質この車の中には今俺だけ。


もし車の流れが通常だったら、このタイミングで追越車線に入り、100キロ以上スピードを出していただろう。

そうすれば、もっと早く東京に着くかもしれないのに。

でも今は、逸る気持ちを邪魔するように、渋滞が始まっている。
現在出せるスピードは、30キロもいっていない。
信号待ちもなく、ただ前の車に続いてノロノロと走るだけ。

少し油断すると、眠くなりそうな程だ。
買ってきたコーヒーは、すでに空っぽ。
次のサービスエリアまでは、もう少し距離がある。

俺は眠気を吹き飛ばすために、ラジオをつける。
眠っている2人が起きてしまうかもと躊躇していたが、今自分が眠気に負けて、居眠り運転をするよりはましだろう……。

せめてパーソナリティーのトークが面白いものにあたって欲しいと思いながら、左手でラジオを操作すると、ぴたりとあるラジオ局の放送に手を止めてしまった。

あの日も流れた、一路朔夜の曲。
こんなことがなければ、きっとデータを買っていたかもしれない程には、実は自分にとっても好みの音楽だった。

悔しいけれど、いい声。
こうして車を運転している今、これを考えるのはどうかとも思うが、それでもやっぱり信じられない。

一路朔夜と凪波が繋がっていたという事が。

それくらい、一路朔夜という人間は、俺にとっては画面の中だけの遠い、リアリティの欠片もない存在だから。

ふと、頭によぎった。
一路朔夜は、何故俺達の街に来れたのか。
単なる偶然……にしては、あの街はローカルすぎる。
ということは……凪波があいつに自分の故郷について話した……と考えるのが自然だ。
でも、こうもタイミングよく、出会えるものなんだろうか。

もし、その出会うという出来事は、目に見えない誰かに仕組まれていたとして、偶然すらも演出されているのだとしたら?

そしてその演出は、一路朔夜と凪波を結びつける運命であることを確実なものにするためだとしたら……。

俺は、ラジオを急いで止める。
すぐにでもこの思考を遮りたかった。
もし今目の前に車がいなければ、法定速度を破るくらいにはスピードを出していたかもしれない。

やりきれないこの気持ち、恐怖をどう処理すればいいのだろうか。

「ライバルの歌を聞くのは耐えられないってか?」
と背後から藤岡が寝起きの声を出す。
「起きたのか」
平静を装いながら、俺は返事をした。
「こっからがサビになるのに、せっかくだったらもっと聞いていたかったんですけどー」
「手が滑った」
我ながらひどい言い訳だ。
「で?何考えてたの?」
藤岡が聞く。
「別に、何も」
「嘘つかない。嫌なものをシャットアウトするのは、葉と同レベル」
ぐうの音も出ない。
「ほら、言ってみ」

俺は、先程頭に過った疑問を打ち明ける。
すると、藤岡から思いも寄らない言葉が返ってきた。

「あー……心当たりがあるかも……というより、多分……私のせい……かも?」