Side朔夜

結局、僕の収録だけ中止になった。

「やる気がねえ奴に割く程、俺は暇じゃねえんだ」
と、監督の鶴の声で。

監督以外の面々からは

「そんなに悪くなかったと思うけど……」
「時間がないですよ!これで通しましょうよ!」

という声もあがったものの

「うるせえ!半端な仕事で客を感動させられると思ってんのかお前ら!」

と監督が一蹴。
僕は何も言い返すこともできない。

「おい、一路ぉ。来週まで時間やる。そん時下手な演技しやがったら、今度こそ降板させる」
「ちょっと待ってください!」
作品のプロデューサーと名乗った男がひどく慌てる。
「一路くんのスケジュールを確保するのに、どれだけ苦労したか……」
「知ったことか。まだキャストは公開してねえんだろ」
「それは……そうですけど……」
「だったらいいじゃねえの。今のうちにもっといい素材、探しとけ」
「いやしかし……」
監督は、その瞬間、プロデューサーではなく僕を見た。
「俺の世界に中途半端はいらない」

それが、僕への警告だと、誰に言われなくても分かっていた。
震える手で台本を落とさないように握るので、僕は精一杯だった。