Side朔夜

あのホテルマンが、手招きをしている。
部屋が見つかったのだろう。

僕はもう一度、凪波という客をベッドで喜ばせるホストという役に戻る。
それからは難なく事を進めることができた。



そうして、案内されたのは、大きなダブルベッドが置かれた部屋。
街を一望できる大きな窓が、部屋を明るく見せている。
太陽の光が、時々眩しい。

凪波は部屋に着いた途端、寝息を立てていた。
このまま、彼女を置き去りにしても良いのかは不安だった。
出血は止まっている。
時間は、もうタイムリミット。

僕は凪波の額にキスしようとして、寸前でやめた。
寝ている時にするキスは、今は卑怯だと思ったから。

早く帰ってきて、凪波の血液になる美味しいものをルームサービスで注文しよう。
着替えも買ってこよう。彼女に似合うきれいなレースのワンピースが良い。

頭の中に常によぎる不安な気持ちを振り払うかのように、この後の楽しみで脳内をいっぱいにして、出かけようとした。

ふと扉を開ける直前に、襲う不安。
……凪波が目が覚めて、またどこかにいなくなってしまったら?
凪波の服をすべて剥ぎ取ってしまった方が効果があるかもしれない。
でも、そんなことをしたら……。

妊娠をしていたという事実を告げられずにいた僕。
それを意味しているのは、僕が彼女に信頼されていなかったということ。

彼女からの信頼をこれ以上失うことは、したくない。
僕はカードキーを2枚持ち去ることだけして、祈りながらスタジオに向かって走った。